零の旋律 | ナノ

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「さて、次は朔夜を救出にいかないとな――栞に今切れられたら面倒だ」

 銀髪が危惧する殺戮の力を栞は持っている。嘗ての惨劇もまた然り。
 来た時と同様に銀色の粉が周囲を舞い、姿を消す。
 銀髪も泉夜もいなくなった場所は数分後本来の姿を見せる。

+++
 最果ての街――罪人の牢獄支配者兼最果ての街支配者の自宅の中に朔夜はいた。

「……直球だなぁ」

 思わず呟かずにはいられない。場所を移動すると告げられた時、何処に移動するのか朔夜は疑問だった。
 そしてその行き先は、支配者の自宅。下手な方法をとらず目的を達成するためにだった。なお且つ梓のいるかもしれない自宅に、わざわざ侵入してくる罪人もそうはいない、そう言った面でも安全ではあるだろう。梓がいたらまた別だが――梓は現在外出中だった。
 外出中を狙ってか、偶然か。
 但し、梓のみならず銀髪も外出中だったのは彼らにとって予想外だったのだろう、大人しくソファーに座っていた。
 来客じゃないんだからと朔夜は心の中で何度か突っ込んだ。
 そこへ扉が開く音がする、梓か銀髪か――身構える罪人たちだったが、姿を現したのはまた別の人だった。

「朔!」

 真っ先に声を上げたのは栞。朔夜の心境が一気に複雑になる。
 栞と待ち合わせしていた以上、栞が自分を探しに来るとは予想していた。しかし栞が自分を見つければ、嘗てのように惨劇が、殺戮が繰り広げられる可能性を懸念していた。
 案の定栞の表情は硬い。いつ切れても不思議ではない。そして次に視線が言ったのは水渚と篝火。篝火が恐らくは栞の予防策の為に水渚を呼んだと判断する。
 それにしても――栞は何故自分を呼んだのだろう、と疑問に感じる。呼んだ内容を朔夜は知らない。当日のお楽しみといって何も教えなかったからだ。
 最後に榴華がいるのを確認する。自分を誘拐した罪人たちに勝ち目がないことは目に見えてわかる。
 篝火だけならまだ勝率があったかもしれない。しかし元第一の街支配者水渚、現第一の街支配者にして最強の戦闘能力保持者と謳われる榴華、元第三の街支配者にして、第三の街の罪人の大半を皆殺しにしたことのある栞、彼らを相手どって無事でいられる保証は何処にもない。
 予想外の人物たちに――そして見覚えのある顔ぶれに罪人達の顔色が曇る。

「朔、大丈夫!?」

 栞は朔夜が外傷を負っていないか目で確認する。見える範囲では別段怪我をしているようには見えない。

「大丈夫だ、大丈夫だから問題はない」

 朔夜は大丈夫の言葉を繰り返す。
 下手に栞を刺激するわけにはいかない。

「なら、良かった。で……お前らの目的は?」

 視線が罪人たちに移動する。その鋭い視線に罪人は一歩後方へ下がる。栞の視線はそれだけで、鋭利な刃物だ。


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