第十話:紅と桜の結末 桃色が風の流れに逆らうことなく靡き道筋を辿る。紫電は空を覆いつくし稲妻が迸り大地を焦がす。 しかし一点だけは元々の大地と遜色のない色のまま。そこには結界が貼られ降り注ぐ紫電を弾いた。 桜が宙を舞う、儚く散りゆく花弁は紫電の空において異様な光景に映るが故に幻想的だ。 ――我は、我の目的のために此処で死ぬわけにはいかぬ ――俺は、俺の目的のために此処で死ぬわけにはいかない 同じ思いが交差し合い、目的の相違によって袂を分かち、刃を向け会う。 永久にも思える時間、けれど刹那のように過ぎ去る時間。負けられない思いがあるから、叶えたい願いがあるから、己が築き上げた力を全力で相手にぶつける。 乳白色の四角が四方に現れ榴華を囲む。蒸発するように煙が乳白色の四角から発せられる。四方を覆い隠すように煙は包み込んでいく。視界が曇る。しかし榴華にとってそれは些細な問題であった、雛罌粟の足音や動きで何処に雛罌粟がいるのか判断出来る。 「そこかっ!」 雛罌粟の気配を感じて紫電を放つ。けれど、何か感覚が違う。何かが違うが何が違うのか榴華には判別できなかった、ただ――雛罌粟がまだ生きていることだけはわかった。 視界は曇る一方だ、紫電で払うこともできない。 圧倒的攻撃力を持つ榴華にとって、雛罌粟の攻撃は脅威にはなりえない。故に雛罌粟に接近されない限り雛罌粟に勝ち目はない。それは雛罌粟とて痛いほど理解してきた。 榴華の戦闘を間近で何度も見てきた。嘗て、第一の街支配者だった水渚が暴走した時、それを止めた実力を体感している。 だからこそ、無数の足止めで榴華の隙をつき、榴華を一撃で仕留める必要があると実感していた。冷や汗が全身を伝う。一瞬の油断が命取りだ。油断したら最後、紫電に飲み込まれる。 「……どういうことだ」 榴華は思わず違和感を口にする。雛罌粟の気配が無数に感じられるのだ。視界は殆どないといっていい。乳白色色に染められた。此処から脱出しようと試みなかったわけではない、けれど何処までも乳白色色は存在し、何処に移動しようがそれから逃れられることはなかった。結界の効果であるのならば、術者である雛罌粟を倒す以外に視界を戻す方法はない。 「ならば全て消し飛ばすまでだ」 ――雛罌粟を殺したいと心の底から思ったことはない、それでも ――榴華を好いていたわけではない、それでも 紫電は榴華自身すらも飲み込んでしまうように轟く。無数の結界は攻撃転じるために、花開く。 「終わりだ」 「終わりじゃ」 言葉が重なる。二人が交わす最後の言葉。 乳白色で視界が見えないはずなのに、二人の視線は重なり合い、そして微笑んだ。 見えないはずなのに、確かに榴華の存在を、雛罌粟の存在を感じた。 [*前] | [次#] TOP |