零の旋律 | ナノ

V


 罪人の牢獄で生きてきた日々。それらは日常と化して彼らの中に確かにあった故郷としての想い出。その中で出会った大切な人たち。彼らと袂を分かつとも、過ごした日々が幻となり消え去るわけではない、それを再度栞は心の中で確かめる。何度再確認しても、自分が最後まで銀髪に付き添うことをイメージしても、朔夜や水渚、千朱たちと過ごした日々が色あせることはなかった。ならば大丈夫だ、と栞は迷いを消し去る。

「……君たちが生き残る上で彼らは目の上のたんこぶだ、殺すんだ」

 栞が厳かに命令を罪人たちに告げる。君たちが生き残る上で、それは銀髪の目的を知らされていないことの証明だ。例え本当の目的を知らなかったとしても、銀髪に従う罪人が此処までいたことは水波にとって意外だった。けれど、同時に納得が出来た。罪人の牢獄で作られた上下関係は簡単には消えないということ。何より彼らは銀髪に借りを作ってしまった、銀髪から恩を感じてしまった。だから彼らは外への自由を手に入れても、未だ銀髪につき従っている。
 全てが混沌とし乱戦と化し、各々の目的を叶えるために、他者を食らう。

+++
 榴華は紫電で夢現そのものを吹っ飛ばすほどの威力を放つが、雛罌粟は未だ傷一つついていない。正確にいえば、傷一つつけられなかった。雛罌粟の周りを覆う球体上の物体が結界の役割を果たし、幾重にも張り巡らされた結界が雛罌粟を守る盾となる。

「囲われた中にいないで外に出てきたらどうだ」
「囲われた、中か。我が中以外を僅かにも求めてしまったから、じゃろうな」
「ん?」
「独り言だ、気にするな」

 雛罌粟にとって全ての始まりは巫女として生きていく中で出会った銀髪の青年。例え、何度同じことが廻りおころうとその全てで雛罌粟は銀髪の青年の手を握る。例え、どんな結末を迎えようとも手を握る選択肢だけは――変わらない。
 雛罌粟が扇子を振るうと同時に、榴華の方に結界が生み出される。榴華は結界が完成する前に宙へ飛び回避する。紫電の力を纏っている時は、普段でさえ並はずれた運動神経を持つが、それをさらに上回ることが出来る。紫電は天候さえも支配するように迸る。強い力は色さえも奪ってしまいそうだ。
 雛罌粟は慌てることなく攻撃一つ一つを的確に対処していく。この目で結末を見届けるため、まだ死ぬわけにはいかなかった。

「なぁ、何故ヒナは俺と何れ敵対する可能性を知りながらもあの時俺を助けた! とどめを刺せばよかったんじゃないのか!」
「……」
「答えろ、ヒナ!」
「例え、今後お主が我と敵対し刃を交えることになっても、我はお主を助けたかったのじゃ。お主のためではない、柚霧のためじゃ」
「柚……」
「我は、銀髪へ加担する以上他の誰かの死に対して冷酷でいる、誰を殺しても我はその咎を背負う。けれど――目の前で愛おしき人が生きておるのなら、そのものが愛おしき人を埋葬してあげるべきじゃと我は思ったのだ」

 嘗て、助けられない人がいた。外への世界を渇望し、外へ手を伸ばして裏切られ失意のまま、愛する人と死んでいった人がいた。その人たちと榴華の姿が重なった。だから雛罌粟は敵対することになっても――生きていて欲しいと願った。


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