零の旋律 | ナノ

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「夢現へ行こうか」
「あぁ」
「夢現は、見た目は小さいが、地下があって――そこは罪人の牢獄にもつながっている」

 泉夜は夢現がずっとそこにあり続けていた理由を語る。

「罪人の牢獄、最果ての街にある最期の楽園の地、その近くへ行くことが出来る道だ」

 最期の楽園、それは以前銀髪に連れられて行ったことのある場所、幻想的で現実味を帯びていない不思議な空間で心が安らぐようなところだった。

「最期の楽園の地は、その名前の通り、最期の自然が生きている場所だ」
「最期の自然?」
「そうだ、最期の自然。罪人の牢獄となる前は普通に人々が暮らしていた大地で、彼らはその大地が死んだから新たなる地上を求めたのは知っているだろ?」

 篝火と水波は頷く。水波も天才軍師として様々な知識を得ているが、それでも――国の歴史に関すれば、玖城泉夜には及ばない。

「故に、この大地は人工的な物でしかない。だからこそ、この大地に存在する自然も人工的な物でしかない、自然に限りなくちかかろうが、変わりなかろうが、それでも――最初からこの世界にあった自然ではない。だから純粋な意味でも自然は最期の楽園にしか残されていない、その地だけは大地の腐敗を免れられた。だが、それ故にその地は猛毒だ」
「猛毒……?」
「純粋過ぎる力は故に猛毒とかすんだ、強すぎる力は薬にはならず毒にしかならない」
「どういうことだ?」

 篝火は泉夜の言いたいことがイマイチ理解出来ず首を傾げる。けれど、水波は泉夜が言いたいことが理解出来た、出来たが故に苦悶の表情を見せる。

「つまり、その大地を放つことで、大地そのものを滅ぼそうってわけだ」
「そういうことだ、最期の楽園は、普段結界で他の大地から浸食されないように――不純物が混じらないように守られている。けれど、その結界を解き放つことで隔離されていた純粋物は世に解き放たれる。まがい物で形成され、それが真にとってかわった今、それは強すぎる毒として不純物を消し去ろうと、毒を放つ」
「けれど、なら何故今まですぐにその手に出てこなかったのかな? 彼らが罪人の牢獄を離れてすぐに解き放てがいいじゃないか」
「猶予期間をあげたかったのもあるだろうが、それ以外にも何か準備が必要だったのだろう」
「準備」
「そう、彼らはこの壮大なる復讐計画を達成するために数百年の時を使って準備しているんだ、今さら準備が必要だったとしても不思議ではない」

 駆け抜ける。夢現の中は閑散としていて誰もいなかった。奥の扉を開けると地下への入り口があり、螺旋階段を下りる。地下へたどり着くまでの道のりは短いわけでもないが、それでも走る。

「全てを終わらせるための切り札が、最期の楽園の地なんだろ、最も確固たる確証はないけれどな、あの入念で壮大な復讐と死を計画する姉弟だ、それ以外の切り札も勿論、他にも用意してあるだろう」
「そうだろうね、何も準備していない方が僕としては不思議だ」

 篝火は最後の数段を飛び降りる。地面に着地すると見なれた光景、曇天とした空は何も移さなくて、昼か夜か、朝かもわからない。毒の砂は相変わらず舞、人の命を奪っていく。


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