零の旋律 | ナノ

第八話:そして現在


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「我は、我の願いのために、じゃ」
「そこまでして死なせてやりたいか」
「そうじゃ、我がそのために死んでも構わぬ。我はその為に未来に芽吹く命を摘み取る覚悟を決めた、どれだけ独りよがりじゃろうと、だ」

 決して変わらぬ雛罌粟の決意。例えば栞や朔夜とは違う、彼らは迷いがありながらも銀髪へついていった。
 水渚は迷いながら、それでも最後には違う道を選んだ。
 けれど雛罌粟はぶれない。自らの意思を、何が一番かをはっきりと決めたうえで重心をしっかりしている。どんなことがあろうと、強固な意志は変えられない。榴華は悟る。
 その瞬間、紫電が溢れだす、強すぎる紫電は榴華の瞳の色さえも変えてしまう。

「俺はお前とは戦いたくはなかったよ」
「我もじゃ」

 雛罌粟は柚霧を助けてくれた人、それはどんなことがあっても揺るがない。

 篝火たちは雛罌粟の相手を榴華に任せることにした。もとより榴華が相手をするので不要な助太刀は入らない。榴華と雛罌粟の邪魔にならないように、彼らは夢現へ侵入しようと試みる――途端、夢現の屋根に所狭しと並べられている人形たちが意思があるかのように襲いかかってくる。
 夢現の人形は屋敷を守るための守護者でもあった。複数の人形は侵入者を排除しようと、人間と変わりない滑らかな動きで牙をむく。

「その程度で」

 汐は鞘から剣を抜く。卓越した剣技は人形の守護者をもろともせずに確実に壊していく。
 しかし、人間とは違う、いくら砕かれようとも、彼らは舞台を踊る。壊れたマリオネットは演劇を続ける。砕けた破片は別の糸に繋がれ新たな攻撃手段となり襲いかかる。
 汐は剣で全てを弾く。その動作に泉夜は感心すると同時にそれが当然だとも思っていた。
 鳶祗家、武術の名門として知れ渡る一方様々な武器を生み出し世に排出してきた一族。まれに武器屋とも呼ばれる。鳶祗汐も例外なく武術の達人であり、様々な武器を巧みに操ることが出来る。一つ一つが平均的なのではない、一つ一つが飛びぬけていながらも平等に扱えることが出来る。
 泉夜はポーチから拳銃を取り出し、弾が入っているかを余裕で確認する。汐が全ての人形を相手にしてくれている以上、焦る必要は何処にもない。篝火や水波も汐に全てを任せているからこそ、何もしない。
 汐の目的はカイヤを止めること、そしてカイヤに生きていてもらおうこと。だからこそ、汐は世界を滅ぼそうとする銀髪や虚の元へも足を運ぶ。

「流石鳶祗汐君だよね」
「……そうだな、貴族って何か皆強いんだな」
「そうじゃないと生きていけないから、だと思うけどね」
「生きていけないからか」
「そう、君が泥棒をしなければ生きていけなかったように、彼らも強くなければ生きていられなかった」
「そうなんだろうな」

 だからこそ、泉たちは他人を信用することを止めた。そうした方が裏切られなくて楽だから。
 裏切られるのが辛ければ最初から信用しなければいい、そうしたら辛い想いも悲しい想いもしなくて済む。
 ただ、淡々と切り捨てることが出来る。そうして狭まれていった心。
 それでも人は一人では生きていないのだというのだろうか、彼らには大切な人がいた。
 何に変えても守りたいかけがえのない大切な人がいた。


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