X 次の日の朝、虚は顔を顰めた。銀髪は呆然と突っ立っている。 銀髪が朝起きて朝食を取ろうと部屋から出た時、時を同じくして虚も部屋から出てきて――リビングの真ん中いた人物に驚く。 虚は気配に敏感だ。寝起きだから気がつかなかったとかではない、その気配が複雑で原因を解明しようと部屋から出てきたのだ。 そこにいたのは十代前半の少女だった。桃色の髪をポニーテールに縛り、左右が途中で別れている。赤い瞳は愛らしく、見る者を魅了するよう。暖色系で揃えられた着物に身を包んでいる。少女なのにどこか貫録が漂う。 「ふふ、驚いたかの?」 「ひ、雛罌粟!?」 姿は幼いけれど、その声はまさしく雛罌粟そのもので。 「虚偽」 雛罌粟が銀髪の本名を呼ぶ。心臓が高鳴る。 ――何故、雛罌粟は 雛罌粟が幼い身体で銀髪に近づき、背伸びして銀髪の顔に近づこうとする。 「術で年齢をいじれるのだ、見た目が変わらぬことなど些細な問題ではないか」 「ははは、雛罌粟君って人は」 ――君みたいな人は初めてだ。僕が生きてきた中で君だけが僕を受け入れてくれた。 「何じゃ? 今にも泣きそうな顔をしておるけど」 「僕が泣くわけないじゃないか。雛罌粟――僕は君に出会えてよかった」 「我も、お主や虚に出会えてよかったと思っておる」 虚は呆気にとられていた。その気配は間違いなく雛罌粟でありながら、何処かが違った。姿を確認してわかった。雛罌粟は術を使って、その姿を変化――いな、若返らせた。 そんなことをして、自分たちの前へ現れてくれた人物は皆無だった。皆、自分たちの元から去った。戻ってくれるなど、予想もしていない。 「ははは、雛罌粟――君を殺さなくて良かったよ」 独り言。雛罌粟を殺そうと思ったことは何度もあった。愛しの弟を奪われたようで嫉妬した。けれど、今は殺さなくて良かったと思っている。 最も――何れ、殺さなければならない。それは虚にはわかっている。銀髪が殺せないのであれば、自分の手で殺そうと決意している。虚にとって大切なのは銀髪で、その優先順位が変わることは決してない。 雛罌粟はその後も、術で幼い姿を維持し罪人の牢獄第二の街支配者として君臨し続けた。 虚は、銀髪のことは大丈夫だと判断し、夢現へ戻り復讐と切望を叶えるために動く。 銀髪は罪人の牢獄で駒を集める。雛罌粟が術で姿を幼くしてから数年後、自分たちの目的を告げたが、その時も雛罌粟は銀髪の元から去ることはしなかった。傍らに居続けた。 [*前] | [次#] TOP |