W 「我が住むのじゃ、過ごしやすくしたいと思うのが普通じゃろ」 「本当に雛罌粟、君には私も驚かされるよ。全く、これじゃあ街だ」 雛罌粟が街を作り上げたことがきっかけか、虚はその後拠点を外に移し、夢現という人形屋を始めることになる。 元々罪人の牢獄に住んでいた虚だったが、何時までも同じ場所で行動を共にしていても復讐までの時間を延ばすだけだと判断したからだ。何より――まだ猶予はあると。 銀髪の、そして虚の異常に気がつくまであと数年ばかりの猶予はある。その間に少しでも復讐をするための舞台を整えようと虚は決意した。 ――どうせ、後数年ぽっち。私にとってその程度の期間なら弟から離れようではないか。 しかし、またしても虚の予想は覆されることになる。 雛罌粟が銀髪と出会ってから五年の月日が流れた。 雛罌粟は五年の間に年齢を重ね、銀髪は何一つ変わらなかった。 銀髪は雛罌粟に問われる前に、言ってしまおうと決意する。姉と一緒に不老不死の事実を告げて、それで雛罌粟と別れようと。 「雛罌粟、話があるんだ」 「なんじゃ?」 予想していなかったわけではないだろう、雛罌粟は敏い。 「もう気が付いていると思うけどさ、俺と姉さんは年をとらない」 「……で?」 「僕と姉さんは――もう何百年の月日を生きている。正確な年数を忘れるほど長い年月を生きているんだ」 「……」 雛罌粟は黙る。ただ、銀髪の言葉を一言一句逃さないように聞いている。 銀髪は心が痛む思いだった。全てを話しきる時が別れの時。 虚は雛罌粟が何か罵詈雑言を飛ばす前に殺そうと指を動かす。 「僕と姉さんはにわかには信じがたいかもしれないけど、不老不死だ。殺されようとも死なない、ただ――生き続ける。当然、外見も変わらないんだよ。雛罌粟がいくら老いていこうとも僕らは変わらない」 雛罌粟は何も言わない。 「騙してきてごめんね。僕らは嘘をついていた」 「何を馬鹿なことをいっておる。お主は最初から嘘などついてはおらぬではないか」 「嘘をついている自覚がないだけ、嘘は日常に沁み込み過ぎて、嘘か誠かすらわからない。だから――雛罌粟、君は此処から去ると言い螺旋階段を登れば外に出られる。僕らは君とは違う。君とほんのひと時一緒にいれて嬉しかったよ」 別れが悲しいのなら、相手が離れる前に、自分から別れを切り出してしまえ。 その方が――心が楽だから。 心は傷つかない方に傷つかない方に言葉を選択していく。どうせ傷つくのならば少しでも被害が少ないように防衛が働く。 雛罌粟は何も言わず、席から立ち上がり、その場を後にした。銀髪の後に騎士のように立っていた虚は何も手を下さなかった。冷たくなったお茶を銀髪は一気に飲み干す。 辺りが静かで、静かで――泣きたい気分だった。久しぶりに体験した別れ。 [*前] | [次#] TOP |