零の旋律 | ナノ

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「全く、健気だねぇ……」

 踵を返して、泉夜は戻ろうとした――その時、銀色の粉が周囲に舞う。
 人気は自然とない。皆泉夜と関わりたくなくて避けた結果だ、それが今此処では好都合になる。

「銀色のお出ましとは。余程俺の来訪は好ましくないと見える」

 銀色の粉だけで、その人物を判断する。程なくして罪人の牢獄支配者、通称銀髪が姿を見せる。

「此処は観光地じゃないんだ、そう易々と入ってこないでよ。全く」

 やれやれと、肩をすくめる。

「軌跡を廻っていただけだ」
「軌跡をめぐるって……たく。ただでさえ術で年をとるのを止めている君が此処に足を赴いたらどんな結果になるか程度、容易に想像がつくだろうに」
「そういや、この街以外も廻ったんだが、第二の街は凄いな」

 正直な感想を泉夜は告げる。短い滞在時間で、どれ程“観光”したのかは定かではない。

「雛罌粟にあったのか?」

 凄い要因を即座に思いつき名前を上げる。

「あぁ、俺が術を使用していることを一発で見抜いた。俺と同種の術を使っていたから、というのもあるのだろうが、俺の術より遥かに高度なのを常に使い続けることが出来るのは並大抵の術者じゃない証だろう」
「泉夜君の術は年をとらなく、外見を変らなくする術で、雛罌粟の術は年齢を自在に操れる術だからね」
「あぁ、全く持って驚かされた」
「情報屋なんだ、それくらい承知しとけよ」

 侮蔑の意味を込め、情報屋と強調したがそれを意に介さないで泉夜は続ける。

「元、情報屋だってんだよ、それに――」
「それに劣化しているからってか? 言い訳に過ぎないな」

 意に介さないのは銀髪もまた同様。
 例えこの場に他の人がいたとしても二人の会話を聞いて内容が理解出来ることはないだろう。
 だから場所を移動することはしない。

「まぁ、否定はしない。で、銀色は俺に何用だ?」
「此処は観光地じゃない、下手に踏み入れないでほしい」

 観光地じゃない、それだけで泉夜が罪人ではないことを遠回しに告げている。

「つまり退散しろと?」
「そういっている――とわからないか?」
「わかるけどね。まぁ一日とちょっとしか入れなかったが大体の軌跡は把握出来たよ」
「見捨てておいて何をいうか」
「まぁね。まぁじゃあ去るか」

 泉夜は踵をかえして、岐路に着こうとしたが、最後に一言だけ銀髪が引きとめる。

「――玖城泉夜、この地には二度と足を運ぶなよ」

 次に来たときは容赦しない、瞳が告げている。
 泉夜は苦笑いしながら、それでも銀髪を振り向くことなく歩む。
 久しく呼ばれなかった自分の名字にある種の新鮮さを抱きながら、そして失ってしまったものはもう手に入らない失望感も同時に抱く。
 それが銀髪の狙いだったのだ、と泉夜は気がつきながらも反応はしなかった。


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