V 雛罌粟が罪人の牢獄に来てから数カ月後。銀髪と虚は我が目を疑った。 雛罌粟が此処に住むといった場所は――第二の街と呼ばれる街の一角であった。銀髪の心情としては自分たちと一緒に住んで欲しかった。それが一番安全だから。何せ、銀髪が最も信頼している姉であり、戦闘能力において右に出るものがいない実力を持つ虚がいるのだから。 けれど、何時までも世話になるわけにはいかないと雛罌粟は自分で自分の過ごす場所を探した。 そうして数カ月が流れた時だった。 「雛罌粟……君は何をしたんだい」 虚が呆然としながら問う。真意を読ませない笑みを浮かべ、何時も余裕綽綽な表情の虚がこの時ばかりは呆然とした。何故なら――罪人達で荒れ狂っていた第二の街が、外と変色がない程に落ち着いていた。 建物の大半が壊れ、崩れていたものも殆どが修復され、地面は煉瓦造りで桜色の模様が派手にならないように彩られている。中央には噴水が整備され、水が流れる。血に染まった痕跡はほとんど見られない。修復途中や建設途中のものも数多くみられたが、此処は単なる街にしか思えなかった。人々の争いも悲鳴も聞こえない。 「我が是から住むのなら、住みよい街にしようと思っただけじゃ」 ことも何気に答える雛罌粟に、この時ばかりは本心から虚は笑った。 「あはははっ、雛罌粟。君という人物は面白い。そんなことをしようとして実現した人物は今まで見たことがないよ」 ――そう、数百年の歴史の中で、誰も罪人の牢獄を変えようなんて思わなかった。 「全くだよ、雛罌粟。俺は俺の目を疑った」 銀髪もここにきてようやく言葉を発することができるほどの落ち着きを取り戻した。 「そうか? 我も最初の方は色々と難航したが、一か月もかからぬうちにそうでもはなくなったぞ」 「雛罌粟、君の凄さに俺は心から感服した」 「褒め言葉として素直に受け取っておこう」 「姉さんの言葉を繰り返すようだけど、本当に――そんなことを実現できる人物がいるとは露にも思わなかった」 罪人の牢獄は所詮、罪人。何処まで行こうが罪人でしかない。 罪人の牢獄は辛うじて生きる空間があり、無法地帯。罪人が勝手に行動し、勝手に過ごし――死んでいく場所。それだけのはずが、此処にはこうして街が出来上がりつつあった。今まで争い、殺し合っていた罪人達が談笑している。不思議な空間であり、おかしな空間だった。 「(異常だね)」 虚はそう思う。肌で感じる。一か月程度でそれをやり遂げた雛罌粟の力量は異常だと。 実力行使に出たのか、話し合いをしたのか方法は定かではないが、どのような方法にしようとも、今までのルールを呆気なく覆すことが、雛罌粟には出来たのだ。 [*前] | [次#] TOP |