T 「そうかい」 しかし虚にとって、虚偽がいる場所で、虚偽と一緒にいた雛罌粟を始末することはできなかった。そうすれば、今悲しみがやってくる。 ――愛しい弟。お前はまだ、希望に縋るのかい 「兄弟なのか?」 「あぁ、そうだよ。ってか名前は今さらだけど虚偽っていうんだ」 「みたいじゃの」 「こっちは俺の姉さんで虚」 「そうか」 「雛罌粟は今後どうするんだい?」 「ふむ、我は全く知識がないのでな、銀髪よ教えてくれるか? 虚偽呼びの方が良ければそちらで呼ぶが」 「どっちでもいいよ。でも――暫くは銀髪って呼んで」 虚偽の名前は絶望が多すぎた。少しだけ、別の名前で別の誰かになりたかった。 「ふむ、わかった」 「知識ね、まぁ俺が教えられる範囲で良ければ、だけど」 「それで構わないが、お主は何処に住んでおるのじゃ?」 「……下」 答えない方がいいのではと心中で何度も躊躇した。けれど、雛罌粟に隠し事はしたくなかった。雛罌粟なら受け入れてくれるんじゃないかと想いがあった。口にしてから後悔した。何を甘い夢を抱いたのだと、今まで誰も受け入れてくれることはなかった。仲間だと思っても心を許しても、それは所詮仮初でしかなかった。最後まで裏切らなかった人は誰もいない。 「下とは?」 「罪人(つみびと)の牢獄と呼ばれる、罪人(ざいにん)を幽閉する場所」 淡々と事実を告げる。一度答えたからには答えない以外の選択肢を出せなかった。きりきりと心が痛む。 ――何故、痛むのだろう、俺には痛覚なんてほとんど存在しないはずなのに。 その痛みは、心の痛みだと銀髪は気がつかない。 気がつけないほどの時が流れた。心の痛みを負いすぎて、それがそうだと認識出来なくなった。 「罪人の牢獄か、大層な名前じゃの」 「どういうことだい?」 「我の感想だ、気にするな」 感想、その言葉だけで銀髪の気持ちは楽になる。大層な名前、そんな感想を貰ったことは今まで一度たりともない。 「そんな感想を抱く人を僕は初めて見たよ」 「そうかの」 「あぁ」 銀髪と会話を交わしながら、雛罌粟は気がついた。本来の銀髪は、僕を一人称にしている時だと。 銀髪本人は恐らく無意識のうちに、僕と俺を使い分けていると直感した。心の傷を、雛罌粟は垣間見た気がした。 「どういった場所なのじゃ?」 「どういった場所も何も、君が感想をいった大層な名前通りの場所」 それ以外も、それ以上もない。罪人が幽閉される場所。生きて出ることは叶わない日の昇らない大地。偽りの大地ではなく、“本物の大地” [*前] | [次#] TOP |