第七話:全てを受け入れた心 湖畔、外の世界。内側の世界は最後には赤で覆い尽くされたその光景を最後まで、雛罌粟は眺め続ける。その後、外の世界へ視線を移すが、初めて見る外の世界に何も感じなかった。 「雛罌粟……」 「助かった、ありがとう」 雛罌粟のお礼の言葉が胸に突き刺さる。 「御免、俺がもっと早く異変に気が付いていればよかった」 「何を謝る必要がお主にはあるのだ?」 「俺……あの二人が一緒にいて密会しているのを何回も見ていたんだ、けど僕にとってはどうでもいいことだったから、気に留めなかった」 もしも、気にとめてでもいたら、結末が変わっていたかもしれない。 「何を。それをいうなら我とて、杏珠と庭師の恋が誰かの策略かもしれない可能性を思いついておきながら、何も忠告しなかった。我の責任が一番でかいの」 「雛罌粟の罪じゃないよ、それは」 「そうかの?」 「あぁ、それは断言できる」 ――雛罌粟に罪なんて、不釣り合いだ。 ――雛罌粟に罪を負わせはしない。 是が、罪人の牢獄支配者として、他人を駒として扱う銀髪を知っている者が見たら、やけに不自然におかしく感じる光景だっただろう。実際銀髪も何故そう思っているのかはわからなかった。 のちに、虚は語る。壊れかけていた心をつなぎ止めた存在が雛罌粟だった。だからこそ銀髪は雛罌粟を見捨てることはできなかったのだと。 「虚偽、彼女は誰だい?」 気配も何も感じさせず、銀髪の背後に人が立つ。銀髪より数センチ高く、シルクハットの帽子を被り、黒いコートを羽織った人物は――銀髪と似た相貌をしている。 「彼女は雛罌粟だよ、姉さん」 「ふーん、その衣装は巫女ってところかい?」 「あぁ」 「お前が最近いっていた場所で知り合ったというところか」 姉さんと呼ばれた人物――虚は、品定めするように雛罌粟を見る。その視線は鋭く、並大抵の人物であったなら、その視線から逃れたいと後ずさりをしているだろう。 「私の虚偽に何かをしたのかい?」 瞳と瞳が合う。そこに見えるは殺意。返答を間違えれば一瞬であの世に行きそうなほど、鋭い。 「姉さん。雛罌粟は何もしていないよ」 銀髪――否、虚偽が止める。その言葉が虚にとっては益々雛罌粟を気に入らなくする。 ――虚偽は私のたった一人の愛しき弟だ、誰にも渡しはしない。第一、どんなに親しくなろうとも、私たちの正体を知れば、彼女も逃げ出す。 不老不死である以上、何れ自分たちの正体に気がつく。 そうなった時、悲しみのを抱くのは他の誰でもない虚偽だ。ならば、悲しみは少ないうちに、始末した方がいい。 [*前] | [次#] TOP |