零の旋律 | ナノ

第五話:外への願望


 桜舞い散り、儚き恋を胸に時間の流れの掌で踊らされる。
 銀髪の宣言通り、あの場所に銀髪は次の日もその次の日も、一週間後も来なかった。
来ないとわかりながらも――それでも雛罌粟は銀髪が現れないことを少し寂しく思う。
けれど、引きずることはない。此処は内側の世界、外側の世界とは結界で物理的にも心理的にも隔離された場所と割り切っていた。割り切るようになったのはいつからだろうか、ふと雛罌粟は思いだそうとするが、昔過ぎて正確にはわからなかった。幼少期から割り切った。割り切った後の後悔はしていない。
 竹を割ったような性格に、杏珠は何時だって苦笑していた。何も全てが二択で割り切れるわけではないのよと。規則を破っている杏珠だからこその言葉であった。
 雛罌粟と杏珠どちらが風変わりだ、と問われれば雛罌粟の方だろう。雛罌粟もそれを理解している。理解したうえで変えようとは思わなかった。それが自分の個性であり、内側の世界で主張出来る数少ないものである。
 内側の世界は酷く脆い。外側の世界の圧力に耐え切れず、何時か砕け散ってしまう。 そんなことを思いながら雛罌粟は普段の日課通り庭に向かう。例え銀髪がいなくてもそれは変わらない。
 銀髪が現れなくなって一か月が過ぎた頃合い、普段と比べ杏珠の様子が変だった。それは日に日に強くなっているように思え、雛罌粟は問うことにした。

「杏珠どうしたのじゃ? 近頃様子が変だが……」
「……あ、ごめん。なんでもないの」
「そうか?」
「うん、本当本当、大丈夫だから」

 無理して笑顔を作っているのが嫌でも伝わってきた。けれど、何故そこまで苦しそうにするのか理由がわからない。杏珠は何故近頃――外を恋しく眺めるのかわからない。 外側の世界に興味を杏珠が抱いているのは、昔から知っている。けれど、昔以上に最近はその傾向が強い。そのうち、外側の世界へ出ようとすると直感出来た。しかし、と雛罌粟は思う。今まで雛罌粟が生きている限りでは、外界と隔てる結界を破ったものはいない。結界を破ったわけではなく、侵入してくることが出来たのはあの銀髪の青年のみだ。
 正当な手段を踏めば、内側の世界へやってくることも可能だが、それには相応の手順を踏まなければならない。此処は内側で完結してしまった場所。外側の世界のごたごたがどんなものであろうと、この地の人間は関心を抱かない。内側だけの世界を守ろうとしている。
 だから、不干渉を望み結界を張る。臨まざるものを近づけないために。防衛手段。
脆い心を守るため、汚れたものを見たくない浄化された空間で過ごしたいと願った結果、彼らは閉じこもった。


- 145 -


[*前] | [次#]

TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -