W そう思って誰も反応しなかった――そして此処から先も反応してはいけなかった。 だが、見覚えある声に反応せずにはいられない。厭々篝火が振り返るのと、ほぼ同時に榴華も振り返り呆然とする。口が開いたまま、言葉を忘れる。 「はにゃやなや」 変な奇声が上がる。 「ぬおぉおおう、亡霊に出会った。亡霊がいたっ」 素の口調に戻りかける程の驚愕が榴華を襲った。 「亡霊って俺は生きている」 泉夜がため息をつきなきながら、一体声をかけた何人に亡霊と言われたかと思い出してしまう。 「じゃあ、生霊かっ」 「それはそれで性質が悪いなってか俺は生きている。勝手に殺すな」 「お前やないって、お前やないのが亡霊とかしてお前を生みだしたんや」 普段の二人称は自分を使う榴華が、自分とする余裕もないのか、素と混じり合った口調が生まれた。 「っ、たく。でお前何をしにきたんだ?」 榴華では話にならないと渋々篝火が口を開く。情報に間違いはなかった。唯、そこに朔夜がいなかっただけ。泉夜を責めるつもりはないし、それは筋違いだろう。初対面に近い相手を何故、そこまで毛嫌いし警戒しているのか、理由を篝火自身理解していない。ただ、本能が告げているだけ。 泉夜を見ていると嫌でも泉の存在を思いだしてしまう。 忘れようとしたって忘れることなど出来ない。泉だけでない、郁や斎、大切な仲間たち。 「いや、情報が古かったことを先刻確認したから新しい情報を教えにな、駄目だなぁ……ブランクがありすぎて、少し下手になっているみたいだ。悪かったな」 「ってなんや亡霊さんも情報屋なんかいな、そりゃあ益々気味が悪いわ」 榴華は少し落ち着きを取り戻した模様。 泉のことを知らない、栞や水渚は――もっとも、罪人の牢獄にいた二人は泉の噂を知らないわけではない。ただ本人と対面したことがないだけ。だからこそ成り行きを見ている。 もし、本当に泉夜が朔夜の居所を知っているのなら、栞としてはどんな手段を用いても知る必要があった。 「元だ、元。現役を引退してから何年も月日がたっている。それに――劣化だしな」 「なんや?」 「いや、意味は知らなくていい。で、探し人の場所だが」 その場所を聞いても別段驚愕することはなかった。 朔夜を態々誘拐したのだから、当然と言えば当然。しかし第一の街に住む罪人がその地に足をふみ運ぶはずがないと除外していたのもまた事実。 朔夜が誘拐されたその場所は最果ての街。無法地帯。 最も罪人らしい罪人が集まる場所。 すぐさま足を運ぶのに走り出す。栞は一人で移動しようとしたが、それを水渚が止める。 「栞ちゃん、一緒に行動するよ。君が一人で先走られると後々大変だからね」 一理あったのか、栞は渋々承諾した。 周囲に人影がなくなったのを確認してから、泉夜は微笑した。 [*前] | [次#] TOP |