零の旋律 | ナノ

第三話:密会


 だからこそ、銀髪の青年は興味が沸いた。

「……また、何をしている」

 次の日、雛罌粟が日課で庭に赴くと縁側に銀髪の青年が座っていた。銀髪の青年が雛罌粟の気配に気がついて振り返る。昨日とは違う何処か希望に縋りたい笑みを浮かべながら、隣へ来るように軽く促す。雛罌粟は呆れながらも隣へ座る。雛罌粟自身、心のどこかでまた会うような気がしていた。それが昨日の今日とは思いもしなかったが。

「一日ぶりだね」
「また花を見にでも来たのか? 二日連続で」
「君だって今日もきているんだろ? ならお互い様さ」
「此処は結界で守られた地じゃぞ? そう簡単に侵入が許されてもいいものなのだろうかの」
「結界か、俺には関係ないよ」

 結界が関係ない、その言葉は嘘ではない、事実だ。事実でなければ結界で内側と外側が
 明確に分離された場所に訪れることは出来ない。
 銀髪の青年は何者か――考えた所で雛罌粟にはわからなかった。雛罌粟は知っている、自分が結界の外に対する知識が殆どないことを。結界内で生まれ、巫女として生涯を捧ぐことを決められている以上、不要な知識は必要がないと書庫にも結界内の歴史や文化を書した書物はあれど、外側のことに関して書かれている書物はほとんど存在しない。それほどまでに隔離された空間だった。
 雛罌粟はそれを不幸だと嘆いた事はない。生まれた時からの仕来たりとして、違和感を覚えることなく――覚えたとしても反発する事はしなかった。

「そうか、ならば我がこれ以上問うのは不要というものか」
「にしても、その口調代わっているよね。君、まだ二十代前半でしょ?」
「ずっと昔から我はこの口調でやっておる。確かに他の者と比べたら口調の違いはあるだろうが、だから何だというのじゃ」

 何処となく古風な喋り方をする雛罌粟だったが、その姿はまだ若く二十代前半。桃色の髪の毛は腰で切り揃えられている。赤い蝶柄の和服に身を包み、赤を彩っていても決して派手ではなかった。巫女としての装束ではなく、普段着として雛罌粟が愛用している服の一つだ。

「まぁ別に俺もとやかくいうつもりもないしな。ただ、此処は相変わらず変らないと思って」
「……不変的かの、此処は」

 相変わらず変わらない、その言葉に以前にもこの場所に訪れたことがあるのか問うか一瞬迷い、止めた。

「あぁ、規律も仕来たりも結界も昔から変わらない。此処以外は結構めまぐるしく動く時だってあるのに、此処だけ確立し隔離され別離された場所だ」
「そうか。我には外がどうなのか大した知識は与えられておらぬ故知らぬが、此処が変わらない事だけはわかるの、だからこそ脆いと我は思う」

 どうして、初対面の見ず知らずの――不法侵入者に雛罌粟は語るのか、わからなかった。
 ただ全てを悟り、絶望も何もかもを体験したような表情、深い絶望に囚われてなおのこと生き続ける瞳に不覚にも惹かれてしまったからかもしれない。その瞳の色どりを変えてあげたいと――思ってしまった。


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