零の旋律 | ナノ

第二話:巫女と銀髪の青年の出会い


 ――君は、最初で最後の友達だよ。

 嘗て言われた言葉、それは時をいくら経ようと色あせることはない。
 永遠に傍に寄り添い歩くことは叶わなくて、共に生きていくことも叶わないのなら、出来る最善の事をしようとあの日決めた。だから、それが彼の望むことならば全力で協力しようと自分の心に誓った。それが、自分の願い。

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 エカルラート東北の地。そこは国の中でも異端の地。東方民族が住まう場所、自治政権を持ち、独自の文明を築いてきた。国の中でありながら別世界のような閉ざされた空間。そこで彼女は巫女として日々を過ごしていた。規律に縛られた世界は、内側だけで完結している。その地で生まれれば外の世界へ行くことは叶わない。彼女は屋敷の中で外の世界を眺めながらも外を見たいと思うことは無かった。この景色から見えるのが世界の全て、色は変わらないと。
 庭園を見ているだけで心が癒された、四季折々の花が季節ごとに咲き乱れる場所は絶景と言っても過言ではない。彼女は巫女だった。巫女――雛罌粟は湯呑を片手に日課である縁側で庭を眺める。娯楽は無いに等しいこの場所で、雛罌粟は庭を見るのが好きだった。
 庭から僅かに漏れる隙間の明りから紅い和服に身を包み接せと庭仕事をする、自分と歳が同程度の青年は雛罌粟の存在に気がつき手を振る。それを微笑み返す。一日が始まったと認識出来る。名前は知らない。庭を隔てた世界の出来事だから。庭仕事といっても、彼が庭仕事を出来る範囲は限られている。
 彼が此方側へ来ることは叶わないし、雛罌粟がそちら側へ行くことも叶わない。物理的に無理だった。何せ外と内側には結界が張り巡らされている。
 例え結界がなかったとして、規律だけが定められていても雛罌粟はそちら側へは足を運ばなかっただろう。何故なら彼女は今ある秩序を壊したいと思えないから。秩序は秩序でしかるべきだと。

 変哲のない日々は続き、ある日変化をもたらす。何時もの日課で庭を眺め、青年に微笑みの挨拶をする。青年は庭仕事が終わると、仕事道具を片付けて去っていく。雛罌粟は暫く庭を眺めたのち、自室へ戻ろうと立ち上がった時だった。普段なら何の音もしない庭から何かが落下したような音が聞こえる。
 何事かと不審に思い雛罌粟は近づくと――それは結界の内側に銀色の髪を靡かせる青年がいた。銀色の髪が手伝ってか何処か現実離れした風貌の持ち主だ。


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