零の旋律 | ナノ

第一話:雛罌粟が選んだ道


 ――人は迷う。迷い悩んで、迷いながら進んで、それでもやっぱり迷い続けて。でも、決断の時は刻一刻と近づいていて。

 怜都が水波の自宅を訪れた三日後、水波瑞は動いた。各地で相変わらず罪人の被害は続いている。
 政府は何の状況報告も出さない所を見ると、隠蔽をしているのではなく、何も出来ない状況――例えばすでに死んでいると判断していた。泉夜に確認を取ったところ、梓と銀髪が政府塔で政府の人間を虐殺したと回答があった。これ以上放っておけば、例え世界が滅ばなくても人が滅ぶ。
 王族が何をしているのかは不明瞭だが、王族は元々七大貴族に数えられている深紅一族だ、貴族の味方をしている可能性も大いにある。水波はその可能性を考慮して行動をすることに決めた。

 夢現周辺に訪れた時、そこは広い荒野と化していた。廃墟の後すら見当たらないほど粉々に砕けた建物。幾人の人が、今までの生活を無慈悲に奪われたのか、水波はその想いを記憶の隅へ追いやる。今、彼らのことまで気を回す余裕は何処にもない。全てのことが終わったら、その時に彼らのことを考えると心の中で誓う。
 夢現の不気味な建物だけが一見残っているのが、酷く退廃的であり、同時に魔王が住まう城を彷彿させる。
 泉夜は、夢現周辺を虚が一掃してしまったことを知っていたが、あえて水波には教えなかった。
 泉夜は、水波は何処か甘いと評価していた。だからこそ、余計なことに時間を割かれないように態と情報を隠した。水波もそれに気が付いているが、気が付いているからこそ何も言わない。
 篝火、榴華、水波、汐、泉夜が夢現の前に近づこうと一歩踏み出した時、元、罪人の牢獄第二の街支配者、雛罌粟が現れた。齢八十を超えても術による外見変化により十代の姿でいる結界術師。彼女の作る結界は並大抵のことでは壊すことは不可能。雛罌粟の実力は魔導師の総本山と呼ばれる雅契カイヤも認める所だ。

「ヒナ……」

 榴華は複雑な心境で、出来れば現れて欲しくなかったと願う雛罌粟の名前を呼ぶ。

「お主はふざけておる姿より、本来の姿でおる方がずっといいじゃろ」
「……」

 榴華は目を伏せる。雛罌粟に対して抱いている思いは複雑だった。
 この世界で何よりも大切な柚霧を殺した銀髪の味方である雛罌粟。
 嘗て、自分と柚霧の命を救ってくれた雛罌粟。どちらも本当の雛罌粟であり、どちらの行動も嘘偽りない雛罌粟の姿。だからこそ、複雑だった。

「何故、ヒナは俺たちの邪魔をする」
「我は、我の目的を果たすためというたじゃろう」
「俺はどうしても信じられないんだよ。ヒナの目的は何なんだ!?」
「我はあやつらを死なせてやりたいのじゃよ」
「銀髪と……虚か」
「そうじゃ。だからこそ、我はあやつらの味方をする。我の目的は虚偽と虚を死なせてやることだ」

 明瞭な意思を持った言霊。

「我は嘗てあやつらに救われた。我もまた救ってやりたいのじゃ」

 雛罌粟が望んだこと、雛罌粟が選んだ道。


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