零の旋律 | ナノ

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「どういうこと?」

 水波が口を挟む。水波にとって万が一にでも泉たちの目的が違えば、作戦を立て直す必要がある。

「いや、明確にはわからない。ただ漠然とした違和感なんだ」
「漠然とした違和感でも構わないよ」
「おかしいんだよ。あいつらが――あの狭い世界しか見られない奴らが、国を滅ぼすだなんて大それたことをしようとするのか?」

 答えたのは怜都だった。確かに存在していた違和感。
 汐以上に怜都は違和感を覚えていた。怜都は泉や律、カイヤと同じ大切な人しか見ない。他の誰がどうなってもいいと思っている。だからこそ、国の誰が死のうが生きようが興味はない。
 けれど、だからといって国を滅ぼそうと考えるか――そんなことをしようとするかがわからなかった。
 国が彼らの大切な人を殺したのなら別だ。例えば――世界を救うための生贄となった。それならば話がわかる。むしろ、国を滅ぼそうとしない方が不自然となってくる。
けれど、それが原因ではない。カイヤの大切な存在である夢華は、悧智に殺され、夢毒に束縛され続けてきた。泉と律の大切な存在である郁は悠真に――白き断罪に殺された。
 それぞれ、夢毒はカイヤの手によって殺され、泉の手によって悠真は殺された。泉も律もそもそも罪人の牢獄へ行くことを決意した発端である対象は殺している。
復讐は本来ならそこで終わっている。
 それなのに復讐を続ける意味は何か、怜都には考えても理解出来なかった。
 もとより、水波ならば他人の考えを真に理解出来ることはないと言いそうではあった。
 確かに他人の考えを真に理解することは出来ないし、怜都も理解しようとは露ほどにも思っていない。けれど怜都にとって、泉や律、カイヤは同じ狢の人間であった。何をするか、わからないほど付き合いが浅いわけでもない。

「そう、俺もそれが謎だった。でも俺よりも怜都の方が、カイヤ達の行動に理解出来るだろうと思って」

 汐は貴族であっても、玖城、志澄、雅契、白銀とは根本的に違う。彼らが闇であり裏であるなら、鳶祗と日鵺、翆鳳院は表であり白であった。光などと奢ったことを汐が思うことはない。闇ではないとしても清廉潔白ではない。手はすでに血で汚れている。染みついた手は死んだところで浄化されることはないと思っている。

「あいつらのやっていることは何かおかしい。それが怜都と話して違和感から確証へかわったよ」

 汐一人の考えでは違和感は勘違いの可能性もある、けれど怜都も同様の考えを持っていたなら話は別だ、一人なら勘違いでも二人なら確証へと変わる。それが、貴族として幼いころから彼らと接してきた自分たちの答え。

「まぁ、俺もだ……汐、ならば一つ昔馴染みとして忠告しておいてやる」
「何だ?」
「結局、変わらないってことだよ」

 怜都はそれだけを言うと、水波の自宅を後にした。虚から様子を伺って来いと言われたが、もう怜都にとっては充分だった。水波に組いる面子が判明すれば、それ以上の様子を伺う必要はない。第一、誰が敵にまわろうが、虚の力をもってすれば敵ではないだろう。彼らが虚や銀髪に勝つ方法はない。ただ、檻の中に閉じ込めることがせいぜい出来るだけだ。


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