零の旋律 | ナノ

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「銀、何故此処に」
「失礼するぜ」

 汐の質問には答えず、中に侵入する。質素なテーブルには、三人の人物がテーブルを囲んでいた。

「……泉夜か」
「そのなりは……白銀家のか」

 泉夜は目を丸くする。この場に何故現れたか泉夜にとっては理解できなかった。

「白銀怜都だ。汐が水波瑞の味方をするとは以外だったな」
「怜都君は何故? やっぱ銀髪にでも言われたのかな?」

 水波は悠長にお茶をすする。水波にとって慌てる必要は皆無だった。この距離に怜都が現れれば自分には対処する術がないことを自覚している。それならば慌てるだけ無駄だった。無駄な悪あがきを水波はしない。

「あいつじゃない。虚の方だ。まあ、汐はカイヤでも止めたいのか? 今さら無駄なことを。あいつが止まるわけないだろう」
「わかっている、それでも止めたいだけだ。銀こそ、何故白冴の味方をする? それはすなわち海璃を死なせることに直結するんだぞ」
「……黙れ、殺されたいか?」

 視線が一気に鋭くなる。人を一瞬で殺せそうなほどに残酷で冷たい光が消えた瞳。

「黙らないな。海璃を大切に思っている、海璃以外どうでもいいと思っているお前が、海璃を間接的であれ殺すことに加担するなんて」
「……」

 汐にとってカイヤが守りたい存在であるのと同様、怜都にとって海璃は守りたい存在。
 泉や律、カイヤとはまた違う思考を怜都は持っている。彼らは決して殺した存在を許さない、それは怜都も同様だ。しかし、例え大切な存在が殺されたとしても彼らは生きている。けれど、怜都は違うと汐は推測している。怜都は海璃を失った世界に耐えられない。

「質問に答えろ。銀、お前は何故――白冴に協力する? 海璃以外どうでもいいと思いながらも、それでも……」
「黙れ!」

 最後まで言わせない。どすの利いた声が空気を木霊する。それと同時に怜都の手の平には短剣が握られていた。袖の長い服に隠された無数の暗器の一つだ。短剣は汐に真っ直ぐ向けられている。逃げようとすれば迷うことなく、喉元を貫くような雰囲気を醸し出している。
 汐は怜都の殺気にひるむことなく、微動だにしない。あの言葉が怜都の琴線に触れることは最初からわかっていた。わかった上で怜都の意思を確認したかった。

「いいや、黙らない。まだ質問には答えてもらっていない」
「……白冴のことなんて俺にはどうでもいい、俺には海璃さえいればいい」

 それが怜都の答え。それでも――白冴に怜都はいる。汐はその矛盾など些細な問題に思えた。怜都の答えが知れたから。ふと顔を綻ばせる。

「何だ」
「いいや、やっぱり銀は――怜都は怜都だと思って」
「知るか。第一、お前だって人のことを言える立場か?」
「そうかもしれないな。なあ、怜都」
「何だ」
「泉たちが狙っていることは本当に――国を滅ぼすことなのか」

 ずっと汐が感じていた疑問。銀は僅かに顔を顰める。それは怜都も感じていた違和感。
 疑問であり違和感、何かがおかしかった。けれど明確な答えを導き出すことは出来ない。


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