零の旋律 | ナノ

第十二話:確かに存在していた違和感


 複雑な螺旋を描き続けた結末への階段を上り続ける。

 白銀怜都、暗殺者一族の当主。
 怜都にとっての全ては翆鳳院海璃ただ一人。海璃が望むのなら白冴を裏切ってもいい。積年の願いを無視しても怜都にとっては構わなかった。その為なら謀反や反対するだろう同胞を殺しても構わないと心底思っている。白銀一族とは、もとは白冴にその血筋がある一族だった。暗殺者白銀一族の本懐は白冴の願望を叶えること、それが真の目的であった。

「虚、俺はどうすればいい?」

 迷いがあるからの問いではない。今後、誰を殺せばいいかそういう意図の質問だ。
 怜都は夢現内にいる。虚は優美に椅子に座っているが、怜都は立っている、座ると髪の毛が床に直接ついてしまうからだ。怜都の足首まである透き通る銀髪は虚と同様の色彩を放っている。

「そうだねえ、水波勢も気になるところだけれども、やはりここは貴族勢の方を先に片付けるべきだろうかねえ」

 世界を滅ぼそうと企む人物だとは思えないほど、ゆったりと緑茶をそそる。

「なら――」
「だが、水波の所も気になるのもまた事実。少し偵察に行ってもらえるかい?」
「わかった」

 怜都が歩くたびに流れに沿って銀髪が幻想的に揺れ動く。怜都としては、貴族勢を殺すより先に水波瑞とであることは有難かった。それを虚が見透かしているかは謎だが、恐らくは見透かしていないと怜都は思っている。虚は銀髪以外には興味を抱いていない、ならば怜都がどのような行動を取ろうが結果的には同じだと思っているだろう。最も、興味はなくとも銀髪の支えである雛罌粟や栞たちの動向にはいくら虚とは言え、気を使っている。怜都は夢現を後にしてすぐに、水波瑞が拠点としている場所まで向かう。

 暗殺者である怜都は、泉とは別の情報網を持っている。ましてや水波は拠点を隠そうとは思っていない。情報屋である泉が存在する以上隠しても無駄だと知っているからだ。
 無駄な悪あがきをしない点は、政府以上に好感が怜都は持てた。
 政府は無駄だとわかっていることに悪あがきを続ける。悪あがきを続けた結果がこれだ。
 ふと思う。数百年前、一度国が、世界が滅びかけた時そのまま滅べば良かったのにと、そうすれば――生まれることがなかったと。海璃と出会えないのは辛いけれど、けど出会わなければその辛さを味わうこともなかった。
 怜都は水波の自宅前で足を止める。気配を完全に立っている以上、中に誰がいようとも感知出来ないと思っていたが――そこに予想外の人物がいることを気配で察する。一瞬、引き返すかどうか躊躇したが、その躊躇に意味はないと判断し扉を開ける。扉を開けた目の前には汐が立っていた。怜都にとって予想外の人物とは汐のことだ。


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