零の旋律 | ナノ

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「それを現実にしてしまえば――ひょっとしたら別の世界なら銀髪や虚が死ねる可能性も見つかるかもしれない、勿論見つからない可能性もある。そして、銀髪や虚の不死性がこの世界という枠のみであるのなら、死ぬ確率もあがる。現に、世界を滅ぼしてしまって死のうとしているわけだしね」
「だが、別の世界がある保証も何処もなく、そして別の世界へ行けたとしても死ねる保証もなく、そもそも行く手段が存在すらしていないか」
「そう、あるかないかもわからないし、あったとしても行けるかもわからない夢物語なんだよ」

 水波はそう纏めた。可能性を追い求めるなら、何もこの世界に限る必要は何処にもない、そんな発想をそもそも虚や銀髪は持っていないだろう。第一、別の世界がこの世界の他にもある保障は何一つない。仮に見つかっても手段もない。手段が見つかっても死ねると確かなことは言えない。最も、世界を滅ぼした所で死ねるとは限らないが――それはまた別の感情であり問題であり意思でもある。

「仮にそんな夢物語を追い続けるのなら」

 泉夜が口を開いてから、やや思案し言葉をつづけた。

「雅契の魔術師が総出で協力する必要もあるし、雅契だけじゃなく志澄や水霧等術系統の家系の力も必要だ。それに政府もまた協力するしかないだろう。膨大な研究者や術者が集まって可能性を追求するしかない」
「だろうね、特に雅契家の協力は不可欠だね」
「あぁ。高名な術師であれば、この世界限定で且つ術式のマークを付けていれば、術による移動が可能だから、それをさらに発展応用していく必要があるだろうからな」
「雅契カイヤ君なら、場所の位置さえ決まっていれば予めその場所にマークを付けていなくても移動が出来る腕前だよ。転移術をそこまで高度に扱えるのはカイヤ君とせいぜい後数名くらいだろうね。銀髪や虚も突然現れたり消えたり出来るけど、それは元々特殊な力を使っているわけだから、純粋に魔術での移動は出来ないしね」
「雅契カイヤはそこまでの腕前だったか。まぁいくら言ったところで夢物語だ、現実から離れ過ぎている」

 仮に雅契が総出で協力をした所で、その術が完成するとは限らない。低い確率にかけて、それを成功させ続けるしかない。

「うん。それに虚偽や銀髪が望むとも思えない。特に銀髪は疲れている、何時になるかわからないのを待てる精神的余裕はないはずだよ」

 希望を抱いて、希望を打ち砕かれて、それでも可能性を信じて希望に縋るしかない。その状況を耐え続けなければならない。

「下手に希望があると、それはそれで残酷だからね」

 信じる程に打ち砕かれて、それでもまだ次はあると信じ続けなければならない。
 だからこそ、世界を滅ぼす道を選んだ。最後の希望にかけて、それが駄目なら銀髪と虚は一生二人で生きていく覚悟を決めている。


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