零の旋律 | ナノ

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「幸せを打ち消すほどの幸せじゃないことがあるからだろ。幸せが打ち消された時――死にたがるだけだ。例え今が幸せでも銀色とあいつの味方はずっと一緒にはいられない。銀色は失うのが怖いんだろ、ただ一人取り残される場面を想像してしまったら――それは幸せじゃない。だから、死を渇望するんだ、喉から手が出るほど欲しがるんだ」
「失う怖さ……」
「大切な人が傍からいなくなった時、自ら生きている意味を無くす人がいる。それは死を望んだ瞬間に幸せが何処にも存在しなくなったからだ、そいつの心で。例え味方が仲間が家族がいたとしても、その瞬間に幸せを思い出せなければ――死を選ぶ。幸せは人を生に繋ぐ光だ。最も」

 泉夜は一旦区切ってから隣で聞きに徹していた水波を横目に見る。

「それは俺の持論だ。人の意見など千差万別だろ。水波瑞は俺とは違う考え方を持っているしな」
「そうだね、僕は泉夜とは違う持論をまた持っているよ」
「だから、俺は銀髪の死をそう見ただけであって、水波瑞はまた違う考えを持ち、榴華も篝火もまた違う持論を持っているんだ」

 答えは一つもなくて、また無数にあり、正しいものは何一つなくて、正しいのも無数にある。誰にも決められなくて、誰もが決めるしかない。

「俺の持論を続けるのならば、虚は銀色とは違いそこまで死を渇望しているわけではない、死にたいとは思っているし、死が訪れるなら両手を広げて死ぬだろうが――別に生きていろと言われたら生きているだろう」
「何故だ?」
「虚にとっての“幸せ”は銀色――虚偽がいることだ。虚偽が存在する以上は、虚は生きていようとも生き続けられる。第一、虚の場合は虚偽以外誰にも心を許していない。他人を自分の領域に踏み込ませることはない、だから――他人を見て心を痛めることがない」
「確かにそうなのかもしれないな。だが、俺からすれば銀髪も似たようなものには感じる」
「柚霧を殺された榴華にはそう思うのかもしれないが、しかしお前は実際に見ただろう。水渚や朔夜、そして栞に道を選ばせるために策を練った銀色を。あいつは身近な――あいつにとっての身内には心を痛めるんだよ。だが、虚は銀色以外何とも思わない、そこが虚と銀色の決定的な違いだ」
「……そうかもしれないな」

 虚の狂気に染まった瞳。銀髪もまた壊れているが、虚は壊れきっている。信じることも、心を許すことも、夢を見ることも、希望を抱くことも止め、狂気の中に身を置いた存在、それが虚だと榴華には思えてならなかった。

「まあ、理解する必要も何もないだろう。結局のところ、俺たちは虚と虚偽に死を許せば全員いやがおうなく死ぬんだからな」


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