零の旋律 | ナノ

第十話:持論


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 数百年の想いは確固たる願いとして確立し、変動することはない。

 榴華は窓の景色を眺める。曇天としていない空は――見なれない。今まで普通に見なれてきた空のはずなのに、見なれなかった。それは罪人の牢獄での生活がいつの間にか普通に変わっていた証拠でもあった。

「何故、そこまでして銀髪と虚は死にたいんだ」

 榴華の疑問であった。景色から視線を外し、水波の方を向く。
 銀髪と虚が数百年生き続けた時の気持ちはわからないし、彼らにとってはわかってたまるものかだろう。
 けれど、今死を求める必要があるのかが、疑問だった。今、銀髪は一人ではない。銀髪の目的を知ってなおも最後まで味方でい続けようとする者がいる。彼らに向ける眼差しは、榴華の瞳から見て、他の人を見る眼差しとは違う。優しさが見え隠れする。
それなのに、自らが死ぬことはそのまま、その人たちを殺すことに直結する。

「多分、幸せを感じられないからだろ」

 黙った水波の代わりに泉夜が答える。テーブルの上で腕を組み、その瞳は真剣だ。

「幸せ?」
「俺は、人が死ぬ時は人が幸せを無くした時だと思っている。人を生に繋ぎとめるのは“幸せ”だ」
「幸せを感じられなくとも、人は死ぬだろ」

 榴華の口調は、自分自身へ向けての言葉でもあった。柚霧を失った今、榴華を生かしているのは復讐が動力だと。

「それは、お前に柚霧とも“想い出”という幸せが存在するからだろ」
「……想い出か」

 見透かされたことに驚くよりも、榴華には不思議と納得がいった。復讐心が今の自分を生かしていることを否定するつもりもない。けれど、それと同様に柚霧との想い出が目を閉じれば脳内に広がる、この光景も今の自分を生かしていることに変わりはない。

「人が自ら死を選ぶのは心が弱いからじゃないと俺は思っている。人が自ら死を選ぶのは幸せが消えたからだ」
「だが、お前の論理でいくと、銀髪は例え死を渇望していたとしても――今に幸せは確かに存在しているだろう」

 銀髪の味方がいる限り、銀髪が全く幸せを感じていないとは榴華には到底思えなかった。特に、銀髪を誰よりも思っている虚が銀髪の傍にはいる。ともに数百年の時を生きてきた不老不死であり唯一無二の家族。


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