零の旋律 | ナノ

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「元、情報屋ね。ならば利用しようか? 朔夜は何処にいるのかな?」

 何故。篝火がそこまでこの相手を忌みしているか知らない水渚が交渉に出る。篝火は硬直している。

「情報には対価だよ、お嬢さん」
「お嬢さんと呼ばれる程の年ではないと思うけれど……。対価ね、まぁそれもそうだね。何もなしに何かを得られるとは思っていないよ。何がお望みかな?」
「そうだな……罪人の牢獄支配者に会いたい」
「……何故、それを望むのだい?」
「情報には対価。なら別にそれ以上の追及は必要ないと思うが?」
「あれに、態々会いに行く必要性は皆無ということだよ。姿をお目にかかりたいなんて、ふざけた心すらない。そんな闇の君に会わせるわけにはいかないってこと。あぁ、勘違いはしないでほしいな。別にあれが心配なわけではないからね」

 念を押すように言う。

「まぁ曲りなりにも君たちの王様か」
「意味のない侮蔑だね」

 水渚は嘲笑う――といっても淡々とした口調を崩すことはない。

「水渚君に何かを言われたいとも思わないけど」
「……私を怒らせたいのかい?」

 何故名前を知っていた、と陳腐なことは問わない。

「それを言うなら僕を怒らせたいのかい? の間違いだと思うが、まぁそんなくだらない会話に意味はないか。朔夜は西にある服屋の地下に囚われているよ」

 地下は秘密裏に何かをするに最適な場所。
 何処の服屋とは言わずともわかる。東西に一か所しか服屋がないからだ。治安が一番いい第二の街になると話は変わってくるが。

「そう、有難う。けれど私は対価を払っていないと思うけれど?」
「なら、君のキスで勘弁して上げようか?」
「冗談。くだらないことを言うのなら、ご褒美に私の沫を上げようじゃないか」

 泉夜の周辺に沫が具現する。しかし泉夜は表情一つ変えない。

「今此処で君と殺り会うつもりは毛頭ないよ」
「君自ら対価を口走ることはしないようだから、これが対価だよ」

 そう言って水渚は何かを泉夜に投げつける。それをしっかり受け取り、中身を確認することなく上着のポケットにしまう。

「確認しないんだね」
「情報屋とのやりとりの仕方を知っているのなら確認する必要がないってことだ」
「そうと見せかけて、ただの石ころかもしれないよ?」
「それならそれで、確認しなかった俺が悪いというわけだ。そもそも俺は元情報屋。今も情報屋を名乗るつもりはない、趣味で情報を集めることはあってもね」
「つまり対価があろうがなかろうが、君にとっては同じというわけだ」
「そういうこと」

 泉夜はそれだけを伝えると、沫を気にすることなく、背を向け歩き出す。最初から目的地はないのか、何処へでも自由に進むような足取りだった。

「終わったけれど」

 終始無言だった篝火に水渚は言葉をかける。心ここにあらずと言った状況。彼が一体何者か、水渚は把握出来ない。

「あぁ……悪い」
「別に構わないよ。君の過去に私は興味を持たない」
「……」

 篝火の沈んだ瞳が、水渚にはくっきりと見てとれた。けど――それは所詮他人ごと。心にまで響かない。無くした感情、欠けた感情。けれど、その金の髪色だけは愛おしく思えた。


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