T 第一の街につく直前で沫から降りて走る。 通路を走っていると目の前に――篝火を予め待っていたかのように一人の男、現在最も噂になっている男、泉の亡霊または泉のそっくりさんがいた。 「よ」 手を軽く上げ、此方に声をかけてくるが篝火は無視を決め込み、その横を通り過ぎる。 「ねぇ、彼は君に声をかけているみたいだけど放置していいの?」 「あれには関わらない方がいい――」 銃声が一発。篝火の肩付近を狙いすましたように通り過ぎる。地面には銃痕。少しでも狙いがずれれば銃弾は篝火の肩に直撃した。誰が打ったか明白だ。 篝火は足を止め、振り向いてはいけないのに振り向いてしまう。 「泉夜っ!」 「あんまり人を無視するなよ」 銃を片手でくるくるとまわしている。いつ暴発しても不思議ではない持ち方だ。 「……ねぇ、なんで君」 水渚は篝火の顔を見ながら疑問を浮かべる。 「銃で撃たれかけたのに――いや、当てるつもりは相手にはないんだろうけど、それは置いておいて何で安堵しているの?」 「――!?」 その事実を指摘され、再認識する。篝火は確かに、否定のしようがなく安堵していた。安心していた。 「確かに、そうかもしれないな」 篝火は認める。 「何故って聞いても?」 「あいつが、鞭を使っていないからだ」 そこまで似ていなくて良かったと。泉は一度も銃を使ったことがなかった。もっとも下手、というわけではないのだろう。意図的に避けている節があった。 「それは、俺が銃を使っているから、だろう」 泉夜は呟くそれを篝火はしっかりと聞きとった。 「どういうことだ!?」 自然と声を荒げる。 「さぁ、な。今、問うべき内容はそのことではないだろう。お前ら困っているんだろ? 教えてやってもいいぜ?」 それは囁き。取引。聞いてはいけない、質問してはいけない、頷いてはいけない。 このまま何も知らずに道を進まなければいけない。それなのに篝火の足は動かない。 口を開こうと思っても何も言葉に出来ない。 「ねぇ貴方。貴方は何が目的なんだい?」 代わりに水渚が問う。 「俺は泉夜。紫黒(しこく)の元情報屋さ」 歪に笑うそれに耳を傾けてはいけない――。 それなのに――脳裏に焼きつき離れない。 闇を彩る黒が、泉夜の周りに現れた黒の破片が。泉夜の笑う姿が。 [*前] | [次#] TOP |