第三話:協力者 篝火は砂を蹴り走る。向かう先は崩落の街。最果ての街より可能性が高いと見込んで、全力疾走する。 崩落の街に到着後すぐに水渚を発見出来たのは不幸中の幸いか。 この街で初めて出会った時と同じように、水渚はしゃがみ何かを調べているようだった。少なくとも篝火にはそう見えた。 「水渚(みぎわ)っ!」 「……ん? あぁ。君かどうしたんだい?」 足音にすら気がつかなかったのか、水渚は篝火に声をかけられて初めて篝火の存在に気がつく。立ちあがり向き合う。砂利っと音が僅かに聞こえる。 「手伝ってほしい」 「何をだい?」 相変わらず淡々とした口調で水渚は応対する。感情を捨て去ってしまったような、悲しさを篝火は水渚と会話するたびに感じる。 「朔夜が誘拐されたかもしれなくて栞が切れるかもしれない状況故対処に協力してほしい」 一息で全て話しきる。 「かもしれない多いね」 くすり、と笑いながらも感情を感じさせない。 「全部未確定要素だから当然だろう。けれど事前に防止策があるのとないのでは結果が変ってくる」 栞の力が不明な以上、対処方法は不明だ。それは榴華にとっても同じこと、いくら榴華戦闘に特化していても、栞の力は別だ。榴華と栞の力は似て非なるもの。 「栞ちゃんがね……。まぁ切れたら凄惨な事になるのは間違いないけど、だからといって私には関係の無いことだよね」 「わかっているさ。け」 「けど」 篝火の言葉の上から水渚は繋げる。 「朔夜が誘拐された、かもしれないのは、好ましい状況ではないかな。私で良ければ手伝うよ。その程度のことなら可能だ」 「有難う」 「お礼には及ばないよ」 淡々としながら、それでも水渚は躊躇することなく篝火に手を差し伸べてくれた。嬉しさが胸からこみ上げてくる。 篝火が罪人の牢獄に来た当初、妥当榴華を上げた一団がいた。その時の表面上のリーダーとして水渚が君臨していた。あの時のことは良く覚えている。忘れられるはずがなかった。 大切なものを失い、それでも生きていて、自暴自棄になって。生きるなら生きている。けれど殺されるなら死ぬならそれで構わないと思っていたあの時、鏡のように映った。同じだと思えた。 だからこそ――水渚には自暴自棄になって欲しくなかった。笑ってほしかった。まだ無理でも。何時か笑ってほしい。その思いは出会ったあの日から色あせることなく残り続けている。 第一の街へ向かう最中の移動は水渚の沫によるものだ。沫の上にのり、バランスをとって移動する。 沫は球状であり、バランスを崩すと倒れてしまう。しかし沫を使う水渚や、バランス感覚に優れた篝火には特に問題とすべきことはなかった。 「昔、朔にやらせたときはすぐに転倒して、全くのれなかったよって、これはそもそも乗り物じゃないからね」 そんな昔話を聞かせてくれた。 ――水渚は想い出までは忘れていない。是からもずっと想い出は大切にしていてくれ。 [*前] | [次#] TOP |