第九話:白銀 +++ 榴華たちと一戦を交えたのち、双海はのんびりとした足取りで白銀邸の門をくぐる。 急ぎ足で歩こうとする繚は、双海より前方を歩いては、後ろを振り返り双海をせかす。 「ふわぁ、眠いね」 双海は急ぐようす皆無で且つ、手を口元に当て欠伸をする。 「全く、双海はのんびりしすぎだよ!」 「別に私がいなくたって怜都には何も問題がないだろうに、何を呼びだしているんだろ?」 「怜様が呼んでくれるなら何だって即効いこうよ!」 繚の白髪がひょこひょこ跳ねる。その姿を双海は可愛いと思いながら林檎を齧る。 「双海はマイペースすぎるよ!」 「繚は本当に怜都が好きだよねぇ……」 繚の隣に並ぶ。繚の頭を撫でながら双海はマイペース差を崩さずに言う。 「あたり前じゃない! 僕は怜様がいたんだから今の僕があるんだよ!」 「わかっているよ」 その光景を微笑ましく思いながら、双海の心境は複雑だった。繚の無邪気や純粋さであれば、この――裏側に入ってくる必要はなかった。あの時なら、まだ引き返せた。 それを引き返せなくなるまで引き込んだのは、自分たちであり、繚自身。 繚は怜都の傍にいることを望んだ。傍にいることを望み、表で過ごすこと諦めた。 「じゃあ、面倒だから怱々に怜都に会おうか」 「面倒じゃないよ! 怜様に会えるんだから!」 繚の抗議を軽く流しながら、怜都の事実をノックもせずに入る。 繚はノックくらいしないと、と双海に抗議するが双海は勝手知ったるなんたらだよと笑うだけで気にする素振りはない。 「で、何だい? 態々私を呼び出したりして」 双海の開口一番の言葉に、窓際で景色を眺めていただろう怜都は軽く眉を顰める。眩しいからか、それとも別の理由からか。 「要件がないと呼びだすなってか?」 「怜都の及びとあらば地の果てにだって」 「お前さっきの態度と今の態度違いすぎるだろう」 「怜都が不満そうだったから」 「……別に大した要件があったわけではないが、要件がないわけでもねぇよ」 「紛らわしい」 双海の一言。遠慮ないものいいは、怜都に仕えている部下とは一線を画する。 実際怜都の部下で、そのような口を聞くのは双海ただ一人だ。繚も他の部下とは違う存在だが、繚と双海では訳が違う。繚は怜都を尊敬し、命の恩人だと慕っている。対して双海は怜都に対して友人であり、主である感覚を持って接している。 白銀家当主である怜都に対して分家が呼び捨てにするのも双海ただ一人だ。 「文句言うんじゃねぇよ」 「そうだよ! 双海!」 「はいはい、二体一じゃ面倒だから。黙って話を聞きますよ」 双海は怜都の部屋にあるベッドに腰掛ける。繚もおいでと双海が手招きをするが繚が怜都のベッドの上に座れるわけもなく、床にちょこんと座る。 「座ればいいのに」 「勝手に怜様の部屋のものに座れないよ! 双海こそ床にすわりなよ」 「やだよ」 「繚。俺は別に気にしないから……せめて椅子に座ったらどうだ」 「わかりました」 怜都の言うことは素直に聞いて、椅子にちょこんと座る。座っていない面積の方がひろそうな勢いで少ししか座っていない。 「相変わらず面白いな繚は」 「そんなことないですよー」 「じゃあ本題に入る」 怜都が要件はないようであるといった内容を告げる――。 [*前] | [次#] TOP |