零の旋律 | ナノ

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「夢毒が殺された事でお前が復讐しようとするのもわからなくもないが、そもそもカイヤに挑むのが無謀だとは思わないのか?」

 雪城から投げかけられる言葉。

「……例え無謀なことだとしても挑まずにはいられないものよ。それが私たちってものでしょう」
「カイヤは外見こそ幼く映るが、それでも……実力だけは確実だ。無邪気でありながら
狂気だからお前が立てつけばそれこそ、何も思わずに殺しにかかるぞ」
「上等よ。だから雪城。どいて。私はカイヤに挑みたいの」
「私が戦う必要がなかったとしてもだ、我が主に挑もうとするものに対して何もしないわけにはいかないだろう」
「そうね」

 最初から言葉を交わす必要など本来はなかった。
 雪城と砌は敵同士なのだから。雪城はカイヤを守るもので、砌はカイヤを殺そうとするもの。相いれないのは当然のこと。
 雪が砌の視界を遮りように舞う。幻想的な雰囲気を醸し出し、是が殺し合いでなければ見惚れていたことだろう。
 体温が低下していくのを肌で感じながらも、心は冷え切ることはない。情熱で高ぶっていく程だ。


 悧智は術で威力を増した拳で律に近づく。
 律は――非戦闘員として白き断罪に加わっていた時とは違う。大鎌を右手に所持している。黒く輝くそれは、数多の血を吸ってきた。
 律の大鎌が一閃する。悧智は後方へ下がる。二撃目が来る、悧智は咄嗟に簡易結界を創り出し律の攻撃を防ぐ。
 本来なら簡易結界程度、律ならば難なく破壊出来たが、悧智が作る結界は他の術者が作る結界より強固だ。
 大鎌は弾かれ反動で後ろに下がる。炎が律を襲うが、律は大鎌を一振りするだけで炎を消し去る。

「ちぃ」
「はっその程度の事で何を云う」

 双方焦りは見えない。口元が歪む。
 悧智の術が炸裂する。風の刃が無数に律を斬り裂こうと蠢く。
 律は結界を創り出しそれを防ぐ。攻撃系の術が律は得意だったが防御が出来ない訳ではない。
 主を守るため自身が生き残る為、戦う術を身に付けた。大切なもの以外全てを斬り捨てる心を創り出した。

「天の空、渚を解き放て」

 悧智が詠唱する。言葉を載せ威力を発揮させる。
 本来悧智クラスの術者であれば、大抵の術は詠唱を破棄することが出来る。
 しかしあえて詠唱することで通常以上の威力を齎す。
 律は大鎌を上から下へ振り起こし、術と併用してカマイタチを起こす。
 鋭い刃。術と術がぶつかり合い、歪な音を奏でる。
 突風が吹き荒れ、雪が僅かに二人に降り注ぐ。

「流石、白き断罪第二部隊の隊長だこと」
「ずっと……櫟の復讐もしたかったからな」

 誰が殺したのかわからなかった、水波に問いかけた処で返答は貰えなかったあの時とは違う。


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