零の旋律 | ナノ

T


「私はでは、カイヤをさがそうかし……」

 砌が悧智の元を離れ、踏み出そうとした時だった。肌寒さを感じる。

「邪魔をしないで貰えるかしら?」

 砌がメイスを構え、前を見据える。目的じゃない人物。

「そうは言わないで貰いたい。私としても、だ。我が主を殺そうとする輩を放っておくわけにはいかないだろう?」

 凛とした声で砌の前に現れるは、雪色の髪、水色の瞳。端正な顔立ちから見える瞳は砌を真っ直ぐに見詰めている。雅契家分家であり雪城家当主がそこにいた。

「そう、じゃあ私は貴方を殺してカイヤの元へいくわ」
「そうはさせないために私がいるのだがな」

 腕を組み、首を傾げる。苦笑いを雪城はしている。砌は舐められたものだ、と内心不快感を抱く。
 雪城の事を、砌は知っている。砌が好きだった相手が雪城と同じく雅契家の人間だったからだ。その名を雪月夢毒。同じ雪のつく分家として砌は記憶していた。
 名前を冠しているのか、雪属性の攻撃を得意とし、防御の方に秀でた存在。攻撃を得意としているわけではない。たいして砌は攻撃に自信を持っている。だからこそだ。砌が走る。地面をメイスが抉る。
 整備された庭が、砌が走った後は土埃が舞う。地面は抉られ生々しい痕跡を残す。

 女性とは思えない力で、砌は今まで夢毒の敵を葬りさってきた。夢毒を一途に愛していたから、彼には妻がいたし子供もいた。それでもそれで良かった。永遠の片思いで構わなかったから。
 報われない、けれど大切な人の傍らで刃を触れることが何より幸せだった。だからこそ砌は砌の世界を壊した相手を許せなかった。例えどちらもお互い様、と呼べるようなレベルの争いだったとしてもだ。
 砌がメイスを掲げ、雪城の前に振り下ろす。雪城は華麗なステップで攻撃を交わす。
 その動きに砌はすぐに思いだす。例え雪城は防御に秀でたとしても、雪城自身は巧みで見る者を魅了する体術を扱うのだと。

「誤解していたわ」

 言葉に出すことでより一層認識を改める。
 油断して勝てる相手ではない。
 何せ雪城は圧倒的カリスマ性を持って、雅契分家を束ねる存在ともいえるのだから。人望だけで言えばカイヤを上回る。元々カイヤは人望等最初から気にしない性格だが。
 砌の体感温度が下がる。雪だ、季節外れの雪が舞う。
 メイスを自在に操り雪城の腕を霞めようとするが後方に下がり交わす。後方に下がる事が予め予想していた砌はメイスを突きだす。
 ――はいっ……いいえ、空振りね。
 それもギリギリの処で交わされる。
 砌が責め、雪城は交わす、その攻防が続いていた。雪城が攻撃にうつろうとする様子は砌から見てなかった。
 攻撃にうつる余裕がないのか、それとも攻撃をするつもりがないのか
 ――だとしたら大分舐められたものね


- 97 -


[*前] | [次#]

TOP


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -