第八話:目的を同じくして +++ 時刻は刻一刻とすぎて行く。朔夜が祖父と対面してから二日後。 悧智と砌は一緒に歩いていた。自分たちの目的を果たす為に『復讐』というなの厄介な目的を。 「貴方はじゃあ志澄律と戦うのよね?」 「あぁ、お前はカイヤだろ?」 「えぇ。ではお互い生きていたらまた会いましょうか?」 砌は手を口元に当てて微笑む。その様子を悧智は凝視する。 「何かしら?」 「いや、やっぱりいい女だって思って」 「口説いた処で無駄よ」 「だろうな」 悧智は頭に手を当てて背伸びをする。 ゆったりとした風が心地よい。ピクニックにでかける気分になる。けれど実際は死と生を争う戦い。 ピクニックなど呑気な気分に本来なら浸れるはずもない。 「お前、髪を切らない方がやっぱり良かったんじゃないのか?」 「そう? すっきりして動きやすいわよ」 腰まであった砌の髪の毛は肩で揃えられていた。手入れのいきとどいた綺麗な紫色。その光景を、その姿を目に焼き付けておこう、と悧智は思う。 復讐を果たす為に。 憧れだった上司を殺した律への復讐を、大切な部下を殺した律への復讐を。 律は大事な存在を悉く奪い去った。復讐の心は何年たとうと薄れることはない。 だから復讐をする。 舞台は全て水波が用意してくれた。ただ、復讐に向かう二人を悲しそうな顔で見送ったのを砌と悧智は覚えている。何かを云おうとして半分まで開いた口が、何を伝えようとしたのか気になることはなかった。 余計なことに囚われて目的を達成出来なければ意味がない。 目的の前ではどんなことでも些細なことへと変貌する。 雅契家の屋敷前、広大は庭が広がる、魔術の実験場も兼ねているのだろう、余計なものは一切ない閑散とした庭。貴族の屋敷としてはもの寂しくすら覚える。 「雅契家に何の用だ?」 突然の不審者に、雅契家の者は不審そうな顔で二人に近づくが、砌がそれをげんこつで殴って地面に倒す。 「ほう、やっぱり砌。お前は力強いよな」 見知った声。嘗て仲間だった声。仲間でありながら異端だったものの声。 「久しぶりだわね、律」 雅契家の庭に律が石に座っていた。見学する場所としてわざわざ作られているのか、石は人が座れるような形に細工がなされていた。 青紫色の髪、ピンク色の帽子は見間違えるはずがない。黒いハイネックに、ワインレッドの上着を羽織っている。律は手を組んで二人が現れるのを待っていた。 「律、貴様は最初から」 悧智は何かを紡ごうとして言葉が出てこない。思い、湧きあがるのは憎しみに満ちた言葉だけ。 ならば――言葉はいらない。 「言葉はいらないだろ? 俺は最初から利用するつもりでしかない。利用価値がないと判断すれば斬り捨てるだけだ。それが俺のやり方」 守りたいものを守るためにそれ以外の全てを斬り捨てる。大切なものを守るためには別の何かを斬り捨てる覚悟はとうの昔からある。 「あぁ、そうだな」 悧智は構える。嘗て、悧智が尊敬していた上司、白き断罪第二部隊陽炎隊長櫟(いちい)。術者が多い陽炎の中で、術と接近戦による技を特化させた存在。 憧れだった。だからこそ、悧智は同じような戦法を確立した。 [*前] | [次#] TOP |