零の旋律 | ナノ

戯れ


 嘗て、ある人は僕に言った。僕と冬馬は似ていると。否定はしなかった。僕は閖姫に、冬馬は李真に執着している。けれど、それ以上に似ているのは、李真だと思っている。
 僕と同様、過去を必要以上に隠し続け、誰かに依存し続ける。狂気に沈んでもなお、平静を装う。
 けど、似ているだけで本質は違い、それと対極に同じである矛盾。
 だって――僕と李真は狂っているの意味も、生きていることも、違うのだろうから。

 是は李真にとって、戯れの問い。

「お前にとって大切なのは亜月と閖姫どっちなんだよ」

 何処か、李真は苛立たしげだった。返答をどちらにしろ、こういった時の李真には近づかない事が正解だ。でも李真が傍にいる時点で既に意味はなさない。

「で、どっち?」

 僕にとって答えられない問い。どちらも大切に決まっている。

「どっちも大切だよ。選ぶことなんて出来ないし、選ぶつもりもないよ」

 二者択一は僕には出来ない。

「だが、どちらか一つしか選べなかったら」
「……酷いよ」

 答えられないのを知っていて、あえてその問いを繰り返すのだから。僕は亜月をぎゅっと抱きしめる。

「でも――」

 でもね、僕だって気付ける事があるんだよ。ううん、僕だからこそ気付ける事があるんだよ――ねぇ李真。

「李真はどうなの」
「俺……?」
「李真だって、どちらを選ぶの? 僕にそれを聞いてくるってことはそういうことでしょ」

 李真にとってもかけがえのない存在がいるということ。二つのうち、どちらか一つしか選べないのならどちらの道を選ぶ? 
 選ばなければいけない場面で、君はどちらを見捨てる?

「あはははははっ、面白い事を」

 唐突に首を絞められる。眼前に李真の歪んだ笑み――ではない苦悶の表情が見える。 否、それは歪んだ笑みでもあり苦悶の表情でもある。

「面白い?」
「あぁ、面白いさ。面と向かって聞いてきたお前が。選択も何も大切な人は今、一人しかいかいない」
「今はって……ことはいたんだね」

 苦しいけれど足掻いた所で食い込むだけ。だから僕は会話を続ける。

「あぁ、俺が殺したようなものさ。俺が生き延びる代償にあいつは死んだ」

 視界が霞む中でも李真の表情だけは、はっきりと捉えられる。

「俺にとって大切なのは、あいつと冬馬だけだ」
「あはははっ」

 今度は僕が笑う番。同じだ。狂気の瞳の中で行き着く先は違えども行き着く道は同じだ。
 僕にとって大切なのは、亜月であり閖姫
 李真にとって大切なのは、あいつであり冬馬
 わかっている、そんなこと――わかりきっていることだ。改めて認識するまでもない。だからこの問いは戯れでしかないのだ。唯の日常。

「やっぱ。狂っているね」
「お前に云われたくはない」

 呼吸が楽になる。力が抜けて僕は床に座り込む。李真、違うよ。僕は狂ってない、狂い切れていないんだ。狂いたいのに、何処かで何かが邪魔をする。



▼あとがき
過去と現在で同じであり似て非なるもの。
李真が本性を見せたことがあるのは、冬馬と、次に奈月、佳弥が半分見せたくらい。







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