男装少女 佳弥が転入してきて一週間くらいたった頃の話。 私と冬馬の部屋に、その美貌と気さくな性格、紳士的な態度で一気に人気者になった噂の少年佳弥と、教員がやってきた。 「佳弥? 何でお前此処に? それに……」 冬馬は教員の顔を見て、怪訝そうにする。以前冬馬にあの教員嫌いなのですか? ときいたら『あの飄々として、サドで、強くて、黒くて、世渡り上手で……とにかく嫌いだ』と即答していた。 因みに佳弥と冬馬は知り合いらしい。詳しくは知らないので、多分私と冬馬が出会う前の知り合いでしょうね。 「僕の部屋、ちょっと不備があったから、修理するまでの間お邪魔することにしたんだよ」 「李真がいるぞ!!」 私がいたら何か問題でもあるのですか? 「問題ないよ。それに、他の見知らぬ部屋にいくよりは冬馬の部屋が一番いいからね」 「というわけで、冬馬暫くは宜しく」 教員に佳弥を押し付けられた冬馬はため息一つ。 そんなこんなで、佳弥は暫くの間この部屋で過ごすことになりました。 「おい、本当に佳弥お前……一人部屋他にないのか?」 「さぁ、詳しい内容は僕も知らないよ。ただ、冬馬ならいいやっみたいな感じでしょ?」 「わけがわからねぇ」 「それだけ信頼されているってことだよ。あぁ、君は殆ど初めましてだね。僕は佳弥」 私の方に向いて。手を指し伸ばしてくる――えーと、握手を求められていると判断していいのですよね。 「初めまして、私は李真です」 「冬馬と同室なのに、丁寧な子だね」 「李真にだまされるなよ。佳弥」 「ん? 何がだい?」 佳弥は首を傾げている。まぁ、本性は冬馬くらいにしか見せていないので当然、他の人は知りませんが。 あぁ、あの教員は知っていましたっけか。 「君なんかと同室になってくれるいい子に対してだまされるなよ、なんて酷い事をいってはいけないよ」 「お前なぁ……」 「あぁ、そうだ。シャワーを借りるよ」 「は!? ちょ、お前待てよ」 冬馬は止めようと手を伸ばすが、さらりとそれを佳弥は回避した。 まだ、この学園に来て一週間程度の佳弥ですが、授業の一環である実技授業で華麗な運動能力を披露していて、冬馬より運動神経は上、だった。だからこそ、回避するのも容易。 暫くするとシャワーの音が聞こえてくる。冬馬は断念したのか、ため息をふかぶかと付いている。その様子はとても暴君と呼ばれているとは思えない姿。 「冬馬、ため息ばかりついていると幸せが逃げますよ?」 「あいつに言ってくれ。俺にため息をつかせるな、と。……」 そこでふと、冬馬は顎に手を当てて考え始めた。何事だろうと私が黙っているとやがて冬馬の中で結論が出たらしく 「よし、李真。外出しよう」 唐突な事を言いだした。全く持って意味不明です。そんなに佳弥という少年と一緒にいたくないのでしょうか? 「何故です」 「あいつがシャワーに入っているからだ。あいつの性格からしてあまりいいことにはならない気がする」 「冬馬。私の理解能力が追いつきません。説明をお願いします」 今日の冬馬はどうにも要領を得ませんね。不安定な時の冬馬――とは全く別。新鮮であり、少し腹立たしい。 「……女だ」 「はい?」 「だーかーら! 佳弥は男じゃない、女だ!」 「呼んだ?」 ひょっこりと佳弥が顔を出す。佳弥は長風呂をしない模様。上はタンクトップに羽織を着ていて、下は短パン――それも太股が見える程短いのを履いているので、すらりとした綺麗な脚が映える。 ううむ……そう言われれば女性に見えなくもないのですが……。まじまじとした私の視線に気がついたのか、佳弥は手を口元に当てて笑う。 「冬馬、君は私の性別をばらしたのかな?」 「あたり前だ! 俺のストレスを増やすな!」 「……確か佳弥の一人称は僕でしたよね? 私が本来の一人称で?」 男装少女、というわけですか。まぁまだ確信したわけではありませんが。 「ん? あぁそうだよ。分かりやすいように私にしてみたんだ」 そういえば、最初冬馬に声をかけた時の一人称も私でしたね、と今さらながら思い出してみる。特に重要な気もしなかったから、気に留めていませんでしたが――そもそも一人称の違いを一々気に留めている人なんていないでしょうし。 「冬馬。私は一応性別を隠す為に男装をしているのだが、何故それを簡単にばらしてしまうのだい?」 「ばらさないでお前は此処で過ごそうとしたのか!?」 「何か問題でもあるのかい?」 「あるにきまっ……もういいや、お前とその辺の会話をするのは疲れるだけだ」 「無駄に体力を使うのは良くないよ。君はただでさえ無駄な事に体力を消耗していそうなのだから」 「……はぁ」 「ため息は良くないよ」 「だーかーら! お前のせいだ!」 「勝手に人のせいにしてはいけないね」 二人の会話は新鮮。言いくるめる冬馬は何度も見たことがありますが、言いくるめられた冬馬は中々みられるものじゃありません。 にしても―― 「佳弥、一つだけいいですか?」 「なんだい?」 「その口調ですと、一人称を私にしたところで大差ないですよ」 むしろ一人称以外は何も変わっていない。 「よく言われるんだけどね。昔から私はこういった口調だったものでね」 「成程」 ですから男装が――いえ、今でも女性だと確信したわけではありませんが。男装がばれないのですね。妙に様になっていますし。普段からそうであるのなら納得です。 佳弥は冬馬のベッドを占領し、横になって寝る気満々。 「……お前、人様のベッドを勝手に占領するんじゃねぇ」 「いや、だって李真のベッドを勝手に使うのは悪いじゃないか。冬馬のならば遠慮なく使えるしね」 「お前の基準で図ると俺の扱いは大分下だよな?」 「それは君の気のせいというものさ」 「……」 「まぁ君が寝る場所がなくなっては困るだろうし、半分は開けとくから安心していいよ。じゃあお休み」 終始自分のペースを崩さなかった佳弥はそのまま目をつぶり眠る体制に。 冬馬は本日何度目かわからないため息の後、私のベッドを占領した。 「……冬馬、是では私の寝る場所がありませんよ?」 「半分開けとく」 「……」 冬馬、一ついいですか、佳弥と変っていませんよ。 結局私は外の空気を浴びて時間を潰すことにした。 ▼あとがき 佳弥が冬馬以外に男装少女だと判明した話。その後、奈月、閖姫、久遠&冬馬の順番に男装少女だと知られていく。 |