零の旋律 | ナノ

From the beginning


 誰のモノにもしない。誰かに渡すつもりもない。手放すつもりもない。
 傍にいてくれるだけでいいとも云わない。
 何を求めているのかなんてわからない。
 わかるつもりもない
 出会った時に魅入ったのだとしても構わないし、結局なんだろうと構わない。
 君は俺のモノ。それだけ。俺のモノであればいい。

 赤に染まろうとも、裏切るのならば殺す
 ――裏切るのなら殺される、それでいい。
 所詮そういった『存在』であり『モノ』

 戯れでナイフを振るい傷つけた頬。流れる血。

「いきなり何をするんですか、全く」

 李真は呆れるだけだ。かすり傷程度にしかみていない、実際に深く傷つけたわけでもないし、多少の事では李真は痛がらない。

「なんとなく?」
「なんとなくでいきなりナイフを向けられても困りますよ」

 李真は苦笑いしながら、ナイフを向けられた事に対して、何の感情も抱いていない。

「と言いつつ、避けようとしてない君に何かを言われたいとは思わないよ」
「避ける必要もないことなら避けませんよ。まぁ気分です」

 気分か、俺も何故傷つけたと問われれば気分としか答えられない。どちらも気分であり戯れでしかない、日常の些細な一コマ。
 修正不可能な程に歪み糸に絡みとられただけのこと。

「なら、もう一回いいか?」
「避ける必要もないですが、傷をつけられる必要もない」
「血が――みたいだけだ」
「なら、自分のその美貌を切り裂いたらいかがですか、血も滴るいい男になれますよ」

 本性と偽りが複合した感じっぽいな。今の李真。
 血が見たい、だなんて唯の嘘だ。
 いや、強ち嘘でもないのかもしれないが、俺の本心はわからない。

「全く、余計な事を考えている時も時ですが――そうじゃなくても貴方は」

 最後まで李真は続けない、わかっていることを改めて言葉にする必要はない。

「まぁ今更ですね」
「あぁ、今更さ」

 引き返せないほど深く縛り縛られているだけ。
 どちらがどちらともつかず狂っていると自覚だけして。



▼あとがき
 李真と冬馬の日常の一部。ふとしたことで冬馬は李真にナイフを向けますが、その理由は冬馬自身、理解していて理解していない。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -