零の旋律 | ナノ

釣られたわけではない


「……うへぇあ」

 閖姫の唸り声。一部の教師から信頼厚い閖姫さんは本日、後日行われる学園主催の行事の参加予定表を作ってくれと頼まれ格闘中だ。俺はその隣で図書館から借りてきた悲劇小説を読んでいる。読んでいる理由は暇つぶし。

「お疲れ様」
「まだ終わっていない。そしてお前も手伝え」

 ばっと半分しか埋まっていない予定表を見せられる。

「面倒じゃん」
「暇つぶしに悲劇小説を読んでいるお前がそんなことを云うな。手伝え」

 ぐいぐいと予定表を俺の顔に近づけられる。
 まぁ日常的よね。閖姫はよく厄介事も押し付けられるから、そして人のいい閖姫はこれまた引き受けちゃうんだから。そうしてドンドン閖姫の評判は上がっていくと。

「はいはい、手伝うよ」

 俺は本をベッドの上に置いて、閖姫の隣に座る。

「じゃあ、この予定表全部宜しく」
「は!? 全部ってどういうことだよ」
「俺はこっちがある」

 そう言って閖姫が机の下から取り出してきたのは未開封の本。どう考えても新しい頼まれごと。
 つーか、二つもあったのかよ。でもまた新しく三つめ四つ目とか増えていきそうだけど、そこまでは俺手伝わん。

「相変わらずだこと」
「……断りにくくて」
「お人よし」
「……」

 さて、からかうのもこの辺にしておいて、俺は閖姫の仕事でもやりますか。
 えーと、こっちが資料で、こっちが名前。
 −−ん?

「あれ? 閖姫、お前今回の行事には参加しないのか?」

 基本閖姫って行事関連――特に実技に関する事は出席しているのに。今回の名簿には名前が載っていなかった。

「ちょっと料理研究部の方の出し物と被ったから」

 閖姫は実技gTの成績を誇っていて、運動神経抜群で、厄介事を引き受ける達人なのに、料理上手なんだよなぁ。所属しているのが料理研究部ってんだから何とも云えん。まぁ料理のうまさは佳弥に見習わせたいところだ。李真でも可。

「何、今回は料理研究部も出てくるの?」

 どうでもいい余談だが、何故か料理研究部は武道派が多い。閖姫のせいだと思う。絶対に。

「うん。偶には料理を皆に振舞おうって」
「風変わりな事もするもんだな。って名簿に相変わらずナヅっちゃんや李真の名前はないし」

 名簿をずらーと一通りみる俺。

「奈月は料理研究部の手伝ってくれるってさ」
「料理出来ないのにかよ」
「出来なくても運んだりとかは出来るだろう」

 あのナヅっちゃんがねぇ……。まぁ余程の事がない限り閖姫の行く所には行くんだろうけど。

「いや、だけど途中段差に躓いて料理ぶちまけそう」

 ベタな展開が待っていそうだよな。

「……」

 閖姫は無言だ。何とも言えないらしい。

「って待て。何で俺の名前が勝手に入っているんだ?」

 参加表明の所に間違いようもなく冬馬って入っていた。どうやら俺は現実逃避がしたくて最初見た時見逃したようだ。

「俺が出られない代わり」
「十夜を出せ」
「あいつはもう出ているから」
「俺の代わりしたって十夜の実力なら問題がない。というか俺がお前の代わりになれるわけがないだろう」
「大丈夫だ」

 おおい、学園最強のお前と一緒にするな。俺はお前程強くはない。
 頭脳面なら勝てる自信はあるけれど。

「何処をどう思えばその自信がわいてくるのか知りたいところだ」
「まぁ頑張れ」

 投げ槍!?

「……」
「そんな恨めしそうな目をするな。お前専用に後でフォンダンショコラ作ってやるから」
「何で俺が食べ物につられる設定になっているんだよ!」
「まぁ頼んだ」
「……どーなっても知らないからな。あ、それとガトーショコラも宜しく」
「太るぞ」

 追加したらケチつけられた。



▼あとがき
 閖姫と冬馬の日常。冬馬は洋菓子系統が好き。






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