零の旋律 | ナノ

Celebrate


「冬馬君、お誕生日おめでとう」
「おめでとう」
「おめっでとー」

 誕生日がついにきてしまった。祝いの声も何処か遠いい。周りから見れば俺は様々な人に誕生日を祝われて羨ましいとも思われているのだろう。妬ましい視線もちらほら。

「有難う」

 勝手にお祝いをしてくれているとはいえ、お礼の一つや二つは言わないとな。誕生日プレゼントをご丁寧に可愛らしいラッピングで包んで、女子生徒たちはプレゼントしてくれる。
 俺は両手一杯に誕生日プレゼントを抱えて部屋に戻る。
 苦戦したのはプレゼントを落とさないように扉を開ける事だった。李真は手伝ってくれなかった。
 部屋にいた李真は俺が山のようなプレゼントを両手に持っているのを見て、一瞬だけ首を傾げたが、特に興味がないらしい。

「お前、何も言わないんだ」
「では、何故そんなに貢物を貰っているのですか?」
「貢物じゃねぇし。俺、今日誕生日なんだよ」
「……あぁ、誕生日だったのですか」

 会話終了。
 ……プレゼント寄こせとは言わないが、せめておめでとうの一言はないものだろうか。

「祝いの言葉の一つもないのかよ?」

 なので自ら催促。

「誕生日は祝うものなのですか? まぁではおめでとうございます」
「何だか全然有難くねぇ!」
「私に誕生日は無縁でしたからね。それにしても祝い事だというのならば、冬馬はどうしてそんなに嬉しくない顔をしているのですか?」
「あぁ、それは……」

 そんな会話をしていた時、ドアが数回ノックされる。嫌な予感しかしないが、無視するわけにもいかず、どうぞーと声を上げると――

「先生?」

 教員がやってきた。俺がよく関わる教員の一人であり、李真の正体を知っている数少ない……もしくは唯一の教員だ。教員の手には大きい箱があった。

「冬馬、お届けモノだ」
「入らないから持って帰ってくれ」
「それは困る」
「上げるから帰ってくれ」
「そういうわけにはいかない。しっかり届けてくれと言われたのだから」

 ほい、といって俺じゃなくて李真に渡す辺り、ちゃっかりしている教員である。

「ってか何でアンタが態々届に来ているんだよ?」
「宅配便代わり」
「職権乱用じゃねぇかよ! いや職業じゃないか。権力乱用じゃねぇかよ!」
「まぁそういわずに」
「まっ――」

 厄介事は御免だ、と言わんばかりに教員は軽快な足取りで去って行った。殺気が沸くってもんですよ。

「冬馬、開けてみてもいいですか?」

 俺が嫌がるプレゼントが気になるのだろう、その瞳は何処か爛々としている。李真って結構サディストだからなぁ……。

「駄目だ! 何勝手に包装解いているんだよ!」

 油断も隙もない。
 箱を奪い返して、俺は部屋を出ることにした。

「何処へ?」
「……」

 答えない。李真は勝手についてきた。廊下を二人で歩く。李真は中身が気になって嬉々としている。その表情が恨めしい。
 まさか、学園にまで送りつけてくるとは思わなかったよ。いや予想はしていたけど。

「なづっちゃん―いるか?」

 返事を待たずに勝手に閖姫となづっちゃんの部屋を空けて中に入る。
 閖姫となづっちゃん両方いた。出来ればなづっちゃんだけだと有難かったんだが、まぁいいや。

「ん? いるけど。ってか冬馬何その箱。あ、お誕生日おめでとうー」
「おめでとう。ケーキ後で持っていくから」

 閖姫は台所で料理中でした。なづっちゃんはベッドにゴロンと転がりながら本を読んでいる最中。
 李真とは違ってしっかり祝ってくれる二人でした。

「……何故冬馬は私に恨めしそうな視線を送ってくるのですか」
「いや、色々。で、なづっちゃん。これ貰ったんだけど、俺には果てしなく不要なものだから上げる」

 なづっちゃんに箱を渡す。なづっちゃんは起き上がって不思議そうに箱を受け取った。
 その時、

「奈月―!」

 俺以上に勝手に扉を開けて、なづっちゃんに用があるのかは謎だが佳弥が入ってきた。
 部屋が一気に狭くなったが、別段支障はない。

「おや、李真と冬馬もいたのかい。冬馬、お誕生日おめでとう。是は僕からのささやかなプレゼントだよ」

 常備していたらしいプレゼントを俺に渡してくれた。

「さんきゅ」

 中を開けると和物の髪留めだった。硝子細工で造られた花がついていて、ピンの色は赤。結構な上物なのが分かる。しかし、毎年のことながら佳弥はセンスいいんだよなぁ。

「って冬馬! 是何」

 そうこうしているうちに、恐怖の箱を開けたなづっちゃんが声を上げた。 箱の中身を持ちあげて――広げてこっちに見せているのだが、なづっちゃん試着一歩手前に見えてしまう。可愛い。似合っている。ちょっとサイズが大きいのが難点だが。

「お前なら似合うと思って」

 白に淡い桜色の装飾が施され、フリルがふんだんに使われたドレス。

「僕、スカートははかないよ!」
「お前なら問題ない」
「似合わないよっ!」

 そういや、なづっちゃんってロングスカートは極まれにしているけど、ミニスカートの類はみた事がないんだよな。いや、別にこのドレスがミニスカートなわけではないけど。

「か、可愛い!」

 悶えるような動作で佳弥はなづっちゃんを凝視している。

「ってか、君は僕のお兄様からのプレゼントを中身も確認しないで人に上げるのかい?」
「有効活用だ!」

 本当は佳弥にばれないうちに始末したかったんだが、ばれてしまったのならば仕方がない。そして、一目で見抜きやがったな佳弥め。

「ふーん。面白いからお兄様に報告してしまおうかな」

 悪魔の笑みだ。やっぱり佳弥はあのお兄様と兄弟だ。あ、兄妹か。

「止めてくれ! 俺が死ぬ! 命日が誕生日だなんて御免だ!」
「ってか、僕が報告しないまでもお兄様なら君が人様にあげたって情報くらい容易に入手しそうだけど」
「ぎゃー止めろ、鳥肌が立ってきた。寒い。凍える!」

 風邪引きそう。恐ろしや。恐ろしや。

「何、佳弥ってお兄さんいたの?」

 なづっちゃんが首を傾げて――服をそのままにしながら佳弥をみる。
 真面目になづっちゃんその服似合っている。そうしていると女の子にしか見えない。いや、俺も佳弥同様なづっちゃんは少女だと思っているんだけど。閖姫や李真はどう思っているか知らないが。

「あぁ、そういえば云っていなかったね。兄が一人いるよ」
「……何でその佳弥のお兄さんが、冬馬にフリフリの服を送りつけているの? ……嫌がらせ?」
「いや愛情表現だよ」
「?」
「毎年の恒例行事だからね。にしても奈月はその服似合うね。今度サイズを調整して同じのをプレゼントするよ」
「い、いらないよ!」

 首を横に振るなづっちゃん。動作が何処となく大げさで、佳弥は可愛さのあまりなづっちゃんを抱きしめに走った。
 ……佳弥がこんなんだから、あのお兄様は俺にフリフリ服を送ってくるのを止めないんだよなぁ。
 そして、佳弥のお兄様と俺の誕生日が近いからなおさら怖い。毎年何をプレゼントするのか非常に悩む。以前、佳弥に相談したら、『お兄様なら、お兄様が君にプレゼントした服を着てくれたら、それが最高のプレゼントだと思うよ』なんて真顔で言われて以降、相談のその字も持ちかけていない。

 あぁ、そうだ。佳弥の学園生活の写真集でも作ってプレゼントするか。それが最適だ。しかしあのお兄様なら既に手に入れてそうだよなぁ……。

「冬馬、その服来てくれません?」
「笑顔で期待するな。この心の中サディスト李真」
「失礼ですねぇ、私は表面もサディストですよ」
「なおさら性質悪いわ」
「私と、佳弥のお兄さんはどちらが性質悪いです?」
「お兄様」

 しまった。うっかり即答してしまった。
 まぁ、何度考え直してもお兄様って即答するけど。



+++
 ▼あとがき
 冬馬の誕生日に、佳弥の兄がプレゼントを送りつけてくる話。冬馬の誕生日は夏〜秋ぐらいだろうなぁという大雑把にしか決めていない。冬馬は奈月のことを、なづっちゃんと呼びます。






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