Reminiscence 佳弥の部屋にて、俺は椅子に座っている。座り心地を良くする為かオレンジのストライップが入ったクッションが敷いてあった。ベッドの上には脚をぶらぶらさせながら佳弥が座っている。季節的には夏だ、部屋の気温は少し暑い。 暑さが手伝ってか、佳弥は半袖のワイシャツを第三ボタンまで開けている。 「お前さぁ、男装している自覚があるのか?」 「大丈夫だよ、仮にばれた処で問題はないでしょう」 正体を知っている俺だからいいけど、いきなりドアを開けられたらどうするんだ、という俺の心配をよそに佳弥は飄々としている。アイスを食べたいとか云いだしてくるしまつだ。 「なら何故男装してきた!? 口説くためか!?」 「何故僕が女性を口説くんだい?」 「……俺には口説いているようにしか映らないのだが」 「おかしなことを云うね」 「そんなんだから、お前のお兄様が少女らしくないって嘆くんだよ」 佳弥の兄を思いだすと寒気が……夏なのに冬な気分になる。 「僕が少女らしくないから冬馬に少女らしさを求めたくらいだしね」 「俺は男だ! 何でお前のお兄様は俺の誕生日に毎年フリルたっぷりの少女らしい衣装を大量に送りつけてくるんだよ!」 そのお蔭で俺は誕生日が苦手だ。毎年の恒例行事的に少女らしい愛らしい衣装の山が届くのだから。 「あはははっ、それは君の事を気に入っているからでしょ」 「毎年嫌がらせのごとくプレゼントが届くぞ」 本当に、あのお兄様は俺の事が嫌いなんじゃないかと思う程に。 「あははっ、問題ないよ。君の事を可愛がっている証拠なんだから。前も……」 「前も?」 嫌な予感しかせず、身構えてしまう。 「冬馬が家出をした時『持てる権力の全てを駆使して見つけてやるぜ』って高笑いしていたくらいだから」 「こ、こ、怖!!」 怖すぎて容易に想像できる。あのお兄様は大魔王の生まれ変わりか!? 「大丈夫大丈夫。もてる権力の全てを駆使しなくても見つかったから」 良かったねーと佳弥は他人事だ。実際他人事だけど。 「お前のお兄様が全力で俺を探しだしたら、俺は地の果てに逃げても捕まる気がする」 「だろうね」 同意しないで下さい。切実に。 「……ってか、やっぱお前は俺がこの学園にいるって知って此処に来たな?」 お前が来ることを俺は知らなかったから驚いたが、佳弥に驚いた素振りはなかった。 となると、最初から俺がいることを知って佳弥が来た可能性の方が圧倒的に高い。偶然ではないだろう。 「あたり前じゃないか、君がこの学園にいるから安全だろうっていって僕を此処に越させたわけだし」 「怖!! お前が怪我でもうっかりしたら、俺はお前のお兄様に殺されるじゃねぇかよ!」 「あははっ、せいぜい殺されないように頑張ることだね」 「……ほんと、お前のお兄様無理難題を俺に押し付けるな」 「君を気に入っている証拠だよ」 「嬉しくもなんともねぇよ」 本当に。 ▼あとがき 佳弥には兄が一人います。佳弥と冬馬が二人称で会話しているのは、佳弥と冬馬が偽名だから、偽名も本名も云わないために「君」「お前」呼び。 |