零の旋律 | ナノ

泳ぎたいのです


「夏だ! プールで泳ぎたいのに、なんで僕は泳げないんだ!」

 部屋に駆けこんできて開口一番、佳弥は叫んだ。本日は夏真っ盛りで天気も清々しい程暑い。

「閖姫もそう思うよね!?」
「あ……いや」

 返答に詰まる問いを俺に振らないで欲しい。現在地は冬馬と李真の部屋。俺はそこでのんびりと過ごしていた所だ。

「お前が泳げない理由なんて明明白白だろうが!」

 泳ぎたいと叫んだ佳弥に対して、冬馬は真っ当過ぎるツッコミを入れた。

「僕は泳いだって問題ないんだよ! 泳ぎは得意だ」
「そんな問題じゃねぇ! お前は男装しているんだろうが! 身体のラインがわかる水着なんか着れるかっ! つーか女だってばれたいのか!」
「僕はいいけど?」
「駄目だからお前は男装しているんだろうが!」

 普段は暴君として知られる冬馬であるが、佳弥が絡むと一変するのはまぁいつものこと。

「なら、夜にプールしようじゃないか!」

 名案とばかりに掌を打つと、冬馬は深い深いため息を漏らした。

「夜中に侵入したら、そもそも学則違反だし……つーか、それでもリスクたけぇよ」

 学則違反云々を冬馬がいっても説得力は皆無だと思いつつも、俺と李真は成り行きを黙って見守っている。
 すると、埒が明かないと思った佳弥は冬馬に何かを耳打ちした。

「――君が魔術で結界と幻影でも這ってくれればいいじゃないか」
「おまっ、俺が魔術師だって隠しているのに平然と利用しようとするか!?」
「僕だってプールで泳ぎたいんだよ」
「……はぁ。わかったよ。なんとかする」

 小声で二人とも会話をしているので、なんて言っているかは聞こえない。しかし次第に佳弥の目が輝いているところをみると、佳弥の何かしらの交渉が成功したようだ。

「有難う! 流石冬馬だね! お礼に抱きついてあげよう」
「断る。それは女子にしてやれ」
「残念。というわけだ、閖姫や李真皆で泳ごうじゃないか!」

 佳弥が両手を広げて歓迎のポーズをとっている。動作一つ一つがほんと優美で様になるやつだよな。

「私は遠慮して置きます」

 泳ごう! といった流れを一気にぶった切る李真の断り文句だった。

「この流れで断るの!?」
「ほら、私は普段から泳いでいませんし」
「あぁそうか、李真は泳げないって設定だったね」
「設定ってなんですか、私はツッコミ担当じゃありませんよ?」
「いや、別に突っ込みを求めているわけではないのだけれどもね。泳がなくてもいいから一緒に行こうよ」
「まぁそれくらいなら構いませんよ」
「じゃあ、なづっちゃんと久遠と十夜も誘っていこう!」

 そうして夜のプールが開催された。そこでも冬馬が苦労したのはまぁ言わずもがな。



▼あとがき
学園にはプールがあるし授業でも泳ぐけど、奈月と李真と佳弥の三人は全部見学します。






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