零の旋律 | ナノ

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「(ん……? あれはエレテリカと……誰だ)」

 そこでカサネは唯一の主である第三王位継承者エレテリカと見知らぬ少年が談笑している姿を見つける。視界で判明出来る範囲だ、そう遠くない場所。
エレテリカの表情までは見えないが、――楽しそうだ、とカサネは直感で判断出来た。しかし、楽しそうにしているからといって見知らぬ少年がエレテリカに害なさない存在とは限らない。
 遠目だが、少年の正体が不明な以上――アーク・レインドフのような名の知れた危険人物ではないだろうが、放置しておくわけにはいかない。カサネは螺旋階段の手すりにつかまりながら階段を下りていく。
 煉瓦造りの建物の間を通って駆け足でエレテリカがいる場所まで向かう。

「あはは、本当に面白いねラディー」
「そう? お兄さんこそ楽しいじゃんか」
「じゃあ、お互い様かな?」
「そうだな」

 笑い声。楽しそうな声。是がエレテリカの素。
 ――俺はエレテリカに何時でも素でいてほしい。
 ――エレテリカの居場所を奪うやつがいるなら、誰だって殺す

「貴方は誰ですか?」

 足音に気がついたエレテリカとラディーがカサネの方を振り向く。
 カサネは冷静に見知らぬ少年――ラディカルを柔らかい、しかし警戒を怠っていない表情で微笑む。
 エレテリカが第三王位継承者、すなわち王子だと認識されているか、いないかこの場では判断がつかない。その為、エレテリカへの第一声ではなく、ラディカルへの問いかけが先に言葉となって出てきた。

「ん? 少年はこっちのお兄さんの知り合い?」
「えぇ」
「俺はラディカル。ラディーでいいよ。少年は?」
「カサネ、です」
「カサネ?」
「えぇ、私のことを存じて?」
「……どっかで聞いたんだよなぁ……」

 ラディカルはカサネの響きに耳覚えがあった。何処かで――それも比較的最近耳にした。
 記憶を遡る。断片的に見えるのは薔薇の花。今にも死にそうなお兄さん。魔族――そしてカサネの名前が結びつく。

「あぁ! 思いだした。あの薔薇魔導師様と今にも死にそうなお兄さんがいっていた名前か!」

 カサネにはわけがわからなかった。
 あからさまに怪訝そうな顔をすると、ラディカルがそれじゃわからないかと朗らかに笑った。

「悪い悪い。薔薇魔導師様ってのはシェーリオル王子様のことで、今にも死にそうなお兄さんってのは……えっと、アーク・レインドフのことなんだ」
「……大変面白い事を聞きました」

 率直な感想だった。そして密かに今度そう呼ぼうとカサネは決める。特に、薔薇魔導師様というのがカサネのツボに入った。

「そうっすか?」
「えぇ。貴方が何故シオルと――シェーリオルと認識があるのかはおいおい詮索するとして、何故此処に?」

 シオルでは通じないと判断し、シェーリオルと言い改める。

「おいおい詮索するんすかよ。俺、滅多に王都に来ないんでひっさびさに足を運んだら道に迷ってさ、この親切なお兄さんが道を教えてくれたんだよ。で、その後お喋りをしていたら盛り上がったんだ」
「そうだったんですか、で――その親切なお兄さんが誰だかは知っていて?」
「何、お兄さん有名人だったん?」

 素で気が付いていない。嘘をついている素振りはないとカサネはラディカルの表情から判断する。


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