零の旋律 | ナノ

V


「しかし、質問があるぞ」
「何なりと」
「不審人物を俺が暗殺する。それは別に構わない。しかし死体はどうする? 死体が見つかればパニックになることは避けられないだろう」
「大丈夫ですよ。その為のシオルです。シオルに何とかしてもらいます」
「なんとかしてもらいますって」

 特に何も考えていないような台詞にアークは呆れる。それはシェーリオルに対する絶対的な信頼か。

「おい。そんなこと俺は聞いていないが?」
「シオルには説明していませんから当然ですよ。同じことを説明するのは面倒なので、シオルへの説明は省略しました。というわけで宜しくお願いします」
「はいはい」
「なんとかしてもらいますのアバウトさでも、お前は平気なのか」

 流石というべきか、呆れるべきかアークは苦笑いする。
 第二王位継承者にして魔導のスペシャリスト。カサネが信頼を置く相手。だからこそ、前もって可能か不可能かを問う事はしなかった。そんな必要性は皆無だし、理由もない。
 出来ると確信しているからこそ、余計なことに時間を裂く真似をしない。それが策士カサネ・アザレア。

「まぁ、結構何時もの事だし。なんとか出来るのもまた事実だからな」
「やっぱ、俺は何時かリーシェと戦ってみたいのだが?」
「謹んで辞退させてもらうさ。前にも行ったが、レインドフと戦うような趣味は生憎持ち合わせていないもので」
「至極残念極まりない」
「その辺で無駄話は終わらせて頂けますか?」

 ヒースリアが眉を引き攣らせながら、続きそうな会話に終止符を打つ。
 ヒースリアとしてはカサネ・アザレアがいるこの場所から一刻も早く立ち去りたかった。

「随分と私も嫌われたものですね。あぁ、アーク・レインドフに渡した拳銃は貴方が使ってもいいですよ」
「冗談を。よしんば使う機会があったとしても、貴方から渡された銃など触りたくもありませんよ」

 その態度はアークを相手にする時より遥かに冷たい。

「そうですか、それは残念ですね。まぁ無駄話をこれ以上しても意味はないことに関しては同意なので、詳細を伝えますね」

 カサネは丁寧な口調で、必要なことだけを端的に伝える。
 周囲に人だかりはない。誰かが盗聴していることもない。人の気配がすればアークが真っ先に気付く。シェーリオルもアークに及ばないまでも、並大抵の実力ではシェーリオルに気付かれるだけだ。

「では、宜しくお願いしますよ」

 祭典を妨害される訳にはいかない。カサネ・アザレアはその場を解散した後、周囲の景色が良く見える建物の上に立っていた。ゆったりとした風が心地よい。蒼い空は祭典日和。
 王都や、街から人々はこの日の為に集まってくる。
 重要人物を抹殺するには警備も厳重だが、絶好のチャンスともいえる。だからこそ、カサネは不穏な動きをさせないよう、不穏な動きがされたとしても目的を達成されない為に動く。
 後手に回ることはない。綿密な計算が導き出した策。死なせない事が目的。目的を違えることはしない。


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