零の旋律 | ナノ

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 数日後、王都リヴェルアにアーク・レインドフとヒースリア・ルミナスはいた。
 年に一度の式典ということもあり、王宮前の広場には沢山の人々が集まり賑わっている。アークは赤いワイシャツと黒いスーツのスタイルは崩さないまま、普段よりも高級な品を身につけ貴族風の恰好になっている。髪は一つにまとめ上げ、赤い花柄の髪留めを着用している。
 ヒースリアも、白と赤を基準にし、普段の恰好とは殆ど同じだが、前は閉めている。髪の毛も上で一つにまとめ上げ、流れる銀髪は透き通っていた。

「お待たせ」
「お待たせしました」

 人気のない場所で、広場の人だかりを見ていたアークとヒースリアの前から、シェーリオルとカサネが姿を現す。

「孫にも衣装ですね」

 ヒースリアが眉を顰めながら、カサネの服を見て開口一番にいった。

「有難うございます」

 作り笑みをして、カサネは礼義正しくお辞儀する。それがヒースリアの機嫌を益々悪くすることに気が付いている。

「へぇ、流石に――着崩さないんだな」
「流石に、着崩せないよ」

 シェーリオルの恰好は普段の着崩した格好ではなく、フリルのついたワイシャツに、黒いロングコートを着用し、前を閉めきている。アークより若干長い髪は前側だけ残し、残りは後ろで一つに結んでいた。

「にしても、お前らが一緒にいるのは初めてか」

 視線をカサネの方へ移す。カサネは外見相応らしい恰好をしていた。この間――貴族のパーティで見た恰好と似ているが、少女らしさは殆どない。しかし、相変わらず中に来ているのは、フリルが段となり後ろへ行くほど長さが長くなっていく作りになっている。その服はシェーリオルが発注したものだとアークは知らない。

「私とシオルが一緒にいるより、別々に行動した方が効率いいですからね」
「ふーん。まぁそれは否定しないが。にしても」
「なんですか?」
「リーシェ王子の事をお前はシオルって呼ぶんだな」
「えぇ、そうですよ」

 シオル――シェーリオルの事をそう呼ぶのはカサネただ一人だ。他の者はリーシェと呼ぶし、シェーリオルも自分の名前を略す時はリーシェでいいと言っている。

「まぁ、シオルと呼んでいるのは私程度でしょうが、呼び名等、レインドフはたいして気にしないでしょ? 彼と同じで」
「あぁ、まぁな」

 名前は記号とは思っていないアークだが、誰をどう呼んだ所で構わないと思っている。流石に今にも死にそうなお兄さん呼びが逸ってほしいとは思っていないが。

「なら、問題はないですよ。詳しい話をしますね。あぁ、その前に是を」
そういってカサネは銀色の拳銃を渡す。拳銃には銀色の魔石が付着していた。
「是で殺せと?」
「えぇ。何でも武器にする貴方ですが、下手なものを武器にされるくらいなら、最初から武器を所持していて欲しいのですよ。確実性が上がるので、余計な可能性は徹底的に無くして置きたいですからね。それでも予期せぬ事態は起きるもの。ならばそれを防衛するためには――護衛する人をつければいいだけですよ。目的は死なせないこと。なんですから」
「成程。その目的を達成するためならば、その目的を達成できるように策を練るだけか」
「そういうことです」

 カサネは断言する。拳銃をアークは眺める。細部にまで拘って作られた拳銃は、使い勝手が非常によさそうに思えた。少なくとも――小枝やコンクリートを武器にするよりかは遥かに。


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