零の旋律 | ナノ

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「何ですか? 求愛の証でも?」
「きも」
「それはあり得ないだろ」
「私としても御免こうむります。自分でいって吐き気がしてきました。冗談も度が過ぎると私にまで破壊力を伴うようですね」

 そしてヒースリアは自己完結した。

「……まぁいいや。で引き受けてくれるのか?」
「まず、色々突っ込み何処ろ満載だが、とりあえず。策士様はレインドフ家を何でも屋だと勘違いしていないか?」
「安心しろ。少なくとも花屋だとは思っていないはずだ」
「思っていない癖に、花屋として扱っただろあいつは!」
「主、手紙にはなんて?」

 ヒースリアが眉を顰めながら問う。アークは手紙ごと渡そうとしたが、ヒースリアはカサネ・アザレアの手紙など読みたくないと拒絶したため、仕方なく読みあげた。

「前略。アーク・レインドフ様にはこの度、リヴェルア王国、王国建設日における、不審人物の暗殺を依頼したく、手紙を書かせて頂きました。つきましては指定の日時に……って続く」
「はぁ?」
「不審人物の暗殺って平たくいやぁ、始末屋の仕事じゃなくて、護衛の仕事だよなぁ……」
「というか、何故手紙なのですか? そこの第二王子に言伝を頼めば事足りるでしょう」

 最もな言葉に、アークは視線をシェーリオルの方へ移す。

「なんとなく、手紙という手段を使ってみたかったそうだぞ。手紙の作法を完璧にして送るか、とかもカサネはいっていたが最終的には面倒になったみたいだ」
「それはそれで恐ろしいっての」
「で、引き受けてくれるのか?」
「依頼である以上、引き受けるよ」

 報酬の事もきちんと掲載していた。その額はレインドフが依頼を提示する額と恐ろしい程一致していた。

「それにしても、策士様は儲かるのか?」

 アークの疑問。レインドフ家への依頼は決し安くない。しかしカサネ・アザレアは何度も依頼をする。
 最も、アークとて何度もレインドフ家へ依頼した人物がいないわけではない。但し、そう言った相手は自然と貴族が多くなる。いくら、第三王位継承者の側近だからといって、カサネは貴族でも何でもない。何度も依頼するための財力があるとは思えなかった。

「カサネは、色々と裏で手をまわしているからな」
「さいで」
「それに、カサネがもしその方面で困るのなら、俺が協力するさ」
「国民から絞り取った物を、随分と酷い扱いにするもんだな」

 アークの皮肉を、シェーリオルは特に気にした素振りもなく、背を向けて歩き出した。手紙を届けるという目的を果たしたからだ。シェーリオルは正式には依頼人ではない。勝手知ったる家のようにすたすたと進んでいった。

「物忘れが激しい主、一ついいですか?」
「何だ?」
「シェーリオル・エリト・デルフェニは、魔導師の研究として無数の功績をあげている、魔導に関して右に出るものはいないという研究者ですよ?」
「あ……」
「国内最高峰の魔導師なんですから、レインドフに依頼することくらい容易かと」
「そうだったな」

 シェーリオル・エリト・デルフェニ。第二王位継承者にして、国内最高峰の魔導師。魔導の研究に置いて、無数の功績をあげている実力者だ。王族の権威を乱用するまでもなく、レインドフ家への依頼が可能だろう。少なくとも――カサネ・アザレアより容易に。

「全く、ボケがもう始まりましたか?」
「お前の性格が良くなったら、俺も余計なことに頭が回る気がするが」
「私が主を容赦なくけなさなければ、感覚が鈍っていきますよ。感謝して下さい」
「感謝しねぇって」


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