零の旋律 | ナノ

始末屋旅行


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 ある日の陽気な天気は心地よい眠気を誘う頃あい、レインドフ家の面々は観光地に旅行をしに来ていた。
 きっかけはリアトリスが旅行に行きたいと主張をした為だ。最初は微妙な顔をしていたアークだが、最終的に「カトレアに偶にはリフレッシュさせてあげたいですよ!」といったリアトリスの言葉によって、一泊二日の旅行に出かけることになった。
 勿論、主であるアークのお金で、だ。今日明日はレインドフ家に誰もいないことになるので、治癒術師であるハイリに服を一着上げることを条件に、レインドフ家に無理矢理滞在して貰っていた。
 誰もいなくても構わないと言えば構わなかったのだが、その時偶々ハイリが服を物色していたのが、ハイリにとっての運のつき。

「あぁ、いい天気ですねーカトレア!」

 レインドフ家の面々は、湖畔を散歩していた。途中、リアトリスがカトレアの背中から抱きつく。温かいぬくもりが直接伝わってくる。

「うん」

 カトレアは優しく微笑むその表情はリアトリスからは見えないはずだが、カトレアが喜んでくれていることは、実感できた。

「カトレアが喜んでくれたなら、偶にはいいかもな」
「そうですね、カトレアのためになら優雅に旅行を楽しむのもいいですね」

 先頭をゆったりとした足取りで歩いていたアークとヒースリアも振り返り、カトレアの方を向く。

「ですよね!」

 リアトリスもそれに同意する。リアトリスは言わずもがな、カトレア至上主義であり、カトレアを一番大切に思っているが、アークやヒースリアもカトレアに対しては優しい。

「それに何かあっても主が守ってくれますしね!」
「いや、お前は知らない。俺が守るのはカトレアだけだし」
「えー、酷いですよ」
「カトレアだけは率先して守ってやるから」
「カトレアを守るのは私ですから!」

 二人の主張を当の本人はどうするべきか、微妙に困った顔をしていたが、それでも心から楽しそうにしていた。一方ヒースリアは

「そうですねぇ、リアトリスだと守りたいって気持ちは湧きませんが、カトレアなら守ってあげたくなりますものねぇ」

 珍しくアークの方の意見に加担していた。

「ヒースも酷いですよっ! まぁカトレアを守らないなんて言ったら、寝込みを襲いますけど」
「寝込み限定なんですか?」
「勿論です。顔に落書きして差し上げるんですから」

 満面の笑顔でリアトリスは告げる。若干ヒースリアの顔が引きつっていた。カトレアを守らないと言うことはこの先ないにしろ――それでも、リアトリスなら平然と実行してきそうだ。
 翌朝目覚めたら落書きされていた、なんてことは避けたい。

「主はともかく、ヒースの綺麗な顔に何を描いて上げるか、とても迷います!」
「止めてください」
「嫌です」

 嬉々とするリアトリスに対し、ヒースリアは首を横に振る。リアトリスなら水では落ちないタイプのを使って落書きすることが目に見えていたからだ。

「おい、そこのリアリア。カトレアが間に挟まれて困っているぞ」
「はっ! 馬鹿主! なんでもっと早く言ってくれなかったんですかー」
「本当ですよ、カトレアがかわいそうじゃないですか」

 カトレアを間に挟んで会話を繰り広げていたリアトリスとヒースリアは、自分たちのことを棚に上げて責任をアークに押し付ける。

「それにしても主、リアリアって何ですか!」
「ヒースリアのリアとリアトリスのリアで、リアリア。丁度いいだろ?」
「何が丁度いいのか、理解に苦しみます」
「ですよ! 私とヒースを一纏めにしないで下さい!」

 何時もの光景、何時もの会話に、笑いを堪え切れなくなったカトレアが笑う。

「また、皆で旅行にきたいな」

 そのひと言で、次回も旅行に行くことが決定した。
 何気ない日常が、想い出の一部であり、大切な日々。


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