零の旋律 | ナノ

執事捜索


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 静かな畔。本来なら絶景な光景が目の前に広がり人々の心を癒すだろう。しかし、現実にはそんな絶景さは血で埋もれてしまっている。
 太陽の光を浴び、煌めく髪を優美に靡かせながら、ヒースリアは溜め息一つ。

「全く毎度のことながら、主の仕事中毒にはほとほと呆れますね」

 始末屋アーク・レインドフが依頼を受け屋敷を飛び出したのは三日前。その後アークが自力で戻ってくることはなかった。仕方なしにヒースリアはアークを回収にし、重い腰を上げてやってきた。
 アークが依頼先をわざわざ告げていくことは滅多にない。偶に同行することはあるが、それだとアークを探す手間暇はかからない。しかし四六時中アークと共に居なければならないと思うと気分は最悪だ。
 だからといって毎回アーク探しをしたいとも思ってない。日に日に、アーク探しが上達している気がして、その事実を認識すると自然と溜め息の一つでも零れるものだった。

「本当に呆れるくらい仕事中毒ですよね、ある種の感心を覚えます。感心したくなんてないですが」

 血濡れた惨劇と化した場所で、悠々と寝ているアークが返事をしないとわかっていても、文句の一つや二ついいたくなる。

「無防備に寝て、寝首かかれますよ」

最も、殺気を感じれば、熟睡中とは言えアークも目覚めるのだろうが、ヒースリアは本気で試したことはないし――そんな勿体ないことはしたくなかった。万が一にも、熟睡中のアークに刃を突き立てて目覚めない可能性を否定しきれない以上、ヒースリアがそれをすることはない。何故なら――

「私以外の誰かに殺されるなんてことは――許さないからな」

 殺すならこの手で。


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