零の旋律 | ナノ

始末屋婚活


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 レインドフ家屋敷の一室。
 アーク・レインドフは机の上に伏していた。正確には机とアークの間には無数の写真が纏められ一冊の本にされた――見合い写真が数冊開かれた状態で置かれている。

「はぁ」

 ため息一つ。その時、形だけのノックがし扉が開かれる。紅色に黒の模様が描かれた絨毯の上を歩く。見ている者を魅了するかのような美しさを放つ形だけの執事ヒースリア・ルミナスがお盆を片手に近づいてきた。

「どうしました」

 机の、見合い写真が置かれていない場所に、桜色の模様が描かれたティーカップを置く。中身はアールグレイだ。

「何処かにさぁ、レインドフ家でもいいって女性(ひと)はいないだろうか」
「そりゃあ、好きこんで始末屋に嫁ぎたいと思う女性はいないでしょ」

 ヒースリアは苦笑いする。そんなモノ好きがいるのなら会ってみたいという意味が言葉には込められていた。

「始末屋だが、財力はあるぞ!」
「殺されれば元も子もありませんよ?」
「う……」

 アーク・レインドフは見合い写真が示すように、現在結婚を前提として付き合う相手を探していた。アークは現在二十三歳、いつ結婚してもおかしくはない年齢だ。

「それに、そんなに結婚したいのならレインドフ辞めればいいじゃないですか。主は顔もそこそこいいんですし、貴族で財力もあるとなれば、いい恋愛出来ると思いますよ?」
「始末屋辞めるなら結婚する意味がない!」
「……さいですか」
「当たり前だろ、始末屋でレインドフ家なんだから探しているんだ。それを辞めるならそもそも結婚する意味がないだろ、愛なんて別にいらないんだから」

 アークは愛を求めているわけではない、単純にアークが一生独身でいればレインドフ家はアークの代でついえる。それをアークは阻止したいだけ。最も始末屋がなくなれば世間的には多いにいいことだとヒースリアは思っている。

「それでは、主の両親はどうやって結婚をしたのですか? 参考にすればいいじゃないですか」
「あれらは無理だ」
「何故」
「恋愛結婚だからだ」
「それは無理ですね」

 アークが誰かに恋をする姿をヒースリアは一瞬たりとも想像出来ない。

「因みに父親が婿養子。当主は母親の方だ」
「そうだったんですか」
「あぁ。恋愛結婚をした両親を参考には出来ないな、第一どうやって知り会ったんだか俺は知らない」
「まぁ知っていたらそれはそれで恐怖ですね」

 ――何せその頃、生まれていないのだから。
 アークは紅茶を口につける。一瞬ヒースリアが素直に紅茶を持ってきたことに、何か仕込んであるんじゃないかと疑ったが、実際にそれを言葉にすれば「人が親切丁寧に準備をしてきたのにそう言う事を言いますか? 流石は非道な主ですね」とか平気で口にしそうなのでやめた。
 最も、ヒースリアが紅茶に毒を仕込んでいるとは到底思えない。自分を殺す手段が毒殺なんて勿体ない事はしないだろうし――そもそも余程の事でなければ毒は効かない。
 なら味がまずいか? と思ったがそういうことでもないらしい。美味しかった。


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