Z 確実に街は崩壊の一歩を辿っている。所々では、強者もいるようだったが、それでも絶対的人数が足りない。魔物の方が圧倒的だ。しかし、この場はどうだろう。苦戦している素振りは一切ない。まだまだ余裕とも見える。何しろ小枝で戦ったり、コンクリートの破片を扱っているのだから。馬鹿にしているとしか思えなかった。 「そこの人族。何者」 少女はついにアークに声をかける。澄んだ声色。アークはすぐさま誰が呼んでいるのか気がつき少女の方を向く。勿論その間魔物の攻撃は続くがアークはコンクリートの破片で撃退する。 「俺はアーク・レインドフだが、そういう少女は……?」 「アーク・レインドフ……レインドフってのは耳にした事があるわね。確か……掃除屋?」 「始末屋!!」 掃除屋の単語を耳にしたヒースリアはおかしそうに笑っていた。 「あははっ、掃除屋ですかいいですねぇ。今度から掃除家業を開業したらどうですか?」 「そこ、会話にのっかるな、手伝いもしない怠け者執事」 アークはヒースリアを指差した後、少女の方へ向き直る。 「始末屋ね。ふーん。私はホクシア」 「ホクシアちゃんか」 「不愉快だからちゃん付けなんてしないで」 「そりゃ失礼」 「人族に謝られた所で嬉しいなんて思いもしないけれど、私たちの邪魔をしないで」 少女が風を切るように手を振るとそれだけで風の流れが勢いを増す。 髪の毛が服が風の流れに逆らわず揺れ動く中で、軸をしっかりとしアークの身体は揺れない。 「邪魔をしないでと、言われてもな。俺には俺の仕事があるもんで」 「そう、なら殺すだけだ……否、訂正ね。仮に邪魔をしないで引き下がってくれた所で殺す」 人族は敵だから――そう言ってホクシアはアークを強く強く睨む。 深い憎悪の中で、人族を恨むことで生きてきたような――瞳がアークに映る。 「そりゃ、そうだ」 コンクリートの破片を試しにホクシアの元まで投げるが、風の抵抗を無視して進むコンクリートはホクシアに届く直前で粉々に砕け散った。ホクシアの魔法だ。 「やっぱ、遠距離からじゃ届かないか」 無くなったコンクリートの破片の代わりに、新たな形が手頃のコンクリートの破片を手にする。 苦戦はしていない。事実多数の魔物を相手にしてもアークは傷一つ負っていない。せいぜい風の影響で髪が乱れている程度だ。 ヒースリアは相変わらず手伝う素振りを見せない。魔物達はアークに狙いを定めたのか、ヒースリアに攻撃してこなくなっていた。 ラディカルは魔族と戦うか、傍観するか、決めかねていた。 ニーディス家の面々は魔物と荒れ狂う風で、屋敷の外から逃げられずにいた。 慌ただしくうろたえる中で、窓から懸命に状況を把握しようとする。そして金眼の少女が魔物に乗っている姿を肉眼で捕える。 「魔族――」 各地で魔族が活発に動いている情報をニーディス家も掴んでいた。だからこそ準備をしている最中だった。その準備が終わる前に魔族がやってきた。どうするべきか――岐路に立たされていた。 アークはホクシアが連れてきた魔物のあらかたを片付けた。 もうアークの周りに生きている魔物はいない。後いるとしても市街地にいる魔物だろう。 [*前] | [次#] TOP |