零の旋律 | ナノ

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「まぁそっか。俺も魔族とか滅多に出会わないけど――混血なんてさらに見かけないな」
「そういうこと」
「まぁその眼帯は暫くしておけ。暫く安静にしておかないと傷口が開く。その間に人族に見つかったら面倒だからな」
「既に、治癒術師のお兄さんとアーク・レインドフに見つかっているけどな」

 初めて――アークの名前をラディカルは呼ぶ。今にも死にそうなお兄さんなどと呼び続けていたラディカルがだ。

「俺の名前初めて呼んだな」

 だからアークも反応をする。

「今のはお礼ってところだよ。……すぐに元の呼び方に戻るよ」
「アークのままでいいんだけど」
「やーだよ。俺は今にも死にそうなお兄さん呼びが気に言っているんだ。俺の中でベスト1のニックネームなんだから」
「まじで?」
「まじで」

 ラディカルは様々な相手に初対面の印象をニックネームとして愛用するが、その中でも今にも死にそうなお兄さんはベストニックネームとして愛着が湧いていた。次点では薔薇魔導師様だ。

「じゃあ俺は少し寝るわって、このベッド占領してもいいのか?」
「構わない。俺はアークがとっている部屋の方でゴロゴロするからな」

 ハイリの断言に、ラディカルは休息を兼ねて枕に顔を伏せる。

「って待て、なら俺はどうすれば?」
「お前はその辺観光でもしてこいよ」
「……わかったよ」

 ハイリの言葉にアークは渋々部屋を後にする。依頼を終えたから一人一足先に帰宅しても構わなかったのだが、リアトリスから交易都市ホクートに行くと告げた際お土産を頼まれていた事を思いだし、繁華街へ出かける。
 お土産を忘れて帰ったとなれば、後後文句を言われること必須だ。かといって素直にお土産を買えば喜ばれるというわけでもないのだが。
 リアトリスとヒースリアのお土産は後回しにしても、カトレアのはしっかり選ぼうと繁華街を回る。
 途中客引きにも会うが、軽くあしらう。
 花をモチーフにした髪飾りを販売している露店を見つけ、品物を眺める。

「いらっしゃいませー」

 店員はにこにこと笑っていて愛想がいい。アークはカトレアに似合いそうなのを――そこでスノードロップをモチーフにした髪留めを見つける。

「スノードロップをモチーフにしているだなんて珍しいな」

 思わず店員に話しかける。

「おや、よくわかりましたねぇこれが何をモチーフにしているか、だなんて」
「花は比較的詳しいもので。普通なら桜とか薔薇とかのモチーフが多いだろう。後はひまわりとかか」
「定番的ですね。定番な商品ももちろん沢山ありますが、様々な種類の花をモチーフにして売っているんですよ」
「成程。ならこのモチーフを一つくれ」
「有難うございますー」

 値段は他の髪留めに比べれば高かったがアークは気にせず財布の中から紙幣を取り出し渡す。
 その後、リアトリスにも似たような物を買わないと文句を言われるなと思い、別の髪留めを一つ購入した。

「(さて、ヒースには何を買っていくか)」

 ヒースリアのお土産の他に、全員で食べるお菓子も買おうと散策する。

「(あいつって普段きている服と趣味が全然違うからなぁ……いや、普通に物を買っても気味が悪いっていわれるだけか……)」

 ヒースリアへのお土産が一番難しいな、とアークが悩んでいた時、喧騒が聞こえる。アークに野次馬根性はない、特に気にもせず露店をうろつく。

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