零の旋律 | ナノ

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「因みに貴方は……魔族に対してどんな感情を抱いているの?」

 唯の問い。漠然とした興味。魔族に対して、興味を抱かない瞳に、ホクシアは興味が湧いた。

「改まって聞かれるとなぁ……別段考えた事がないんだけど……あぁ、あれだ」
「何」
「アークよりは安全」
「ぷっ……あははっ」

 ホクシアは少女の外見に似合った笑みを浮かべる。可笑しそうに。愉快そうに。

「まさかそんな返答が返ってくるなんて予想外だわ。ルキもラディカルも必死に笑いこらえているし」

 ハイリが視線をずらせば、ルキは口元が笑っているのを必死に抑えようとしているし、ラディカルは枕を叩いていた。

「……俺はそんなに変な事をいったのか?」
「魔族に対して、レインドフより安全と返答するのは恐らく貴方だけ」
「俺もそう思う」
「全く……裏じゃなくて……(裏じゃなくて、表の人たちも私たちに偏見がなければいいのに……)」
「ん? 何かいったか?」

 段々声が小さくなり、最後は独り言ですらなくなったホクシアの言葉にハイリは首を軽く傾げる。

「いいえ、何でもないわ」
「ふーん」

 それ以上ハイリは追及しない。興味がないからだ。
 本当に不思議だ、とホクシアは思う。ホクシアとて裏に関わる人族と出会った事がないわけではない。
 けれど、大抵は普通に過ごし、暮らし生きる一般人と出会う確率の方が高い。
 魔族を発見した時の反応は人それぞれだが、大抵の人族は自分たち魔族にいい感情を抱いていない。瞳が態度が物語っている。

「じゃあ、私たちは戻る。これ以上長居しても仕方ないし。……ラディカル、貴方はどうするの?」

 混血であるラディカルへの問い。

「んー。保留かな、まだわからないし」
「そう、結論を急ぐ必要は何処にもないから構わないけど、敵になるなら容赦はしない」

 情けをかけて目的が達成できなくなるくらいなら、最初から情けなどかけない。
 ルキが何か言いたそうな表情にホクシアは気がついたが、あえてルキには何も喋らせなかった。
 ルキが口を開けば、人一人の決断を迷わす事になるとわかっていたから。
 ラディカルは、ラディカルの想いで決断させるために。ルキの掌を握って、そっと諭す。
 ホクシアとルキは魔法陣を展開しその場から消える。

「変な魔族」

 ハイリの率直な感想。ホクシアがその言葉を聞いていたら、変なのは貴方の方と言いそうだ。
 
「で、そこの眼帯は何、魔族なのか?」
「何故……そう思う?」

 ラディカルは身体を起こす。痛みは不思議な程取れていた。アーク・レインドフが信頼を置く治癒術師の実力、と再度実感する。

「だって、魔族がお前にどうする? って質問していたしな」
「……半分な」

 ラディカルは眼帯を外す。外すことに抵抗はなかった。アーク・レインドフの態度が関係していた。勿論ハイリがホクシア達に対して、別段興味も感情も抱かなかったことも理由の一部ではあるが。

「ふーん、混血だとオッドアイにでもなるのか?」
「さぁ。混血なんて滅多に見ないから俺もしらねぇ。ただ……俺は運がいい方だとは思うけど」
「どういうことだ?」
「半分だけだから……片目を隠せば人族って偽って生きていけるからな」

 そうして今まで生きてきた。誰にも本心を、正体を、打ち明けることもせずに。


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