零の旋律 | ナノ

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「……治癒術師のお手並み拝見といこうかしら」

 ホクシアは僅かに考えてから返答する。アーク・レインドフと交友のある治癒術師が、果たして魔族に対してどのような態度を取るのか、僅かばかり興味があったからだ。
 アーク・レインドフと交友があるからと言って、アークと同じように魔族をくくるとは限らない。
 自分たちに刃を向けてくるなら、刃で返すだけ。ホクシアにはそれをするだけの実力が伴っている。

「最も、街中で私たちが目立つわけにはいかないから、貴方たちにこっそりついて行くけれど。ルキも構わない?」
「うん」

 ルキはラディカルの怪我を心配している。ラディカルが無事な事を確認したかった。
 ラディカルは眼帯をつける。金色の瞳を隠してしまえば、人族にしかその相貌は見えない。
 人族と魔族の違いなど、瞳の色程度だ、とラディカルは眼帯を見る度に思う。外見に限っては、だが。

 アーク・レインドフが宿をとっている部屋の隣に、ハイリ・ユートは休息している。
 朝刊をベッドの上で転がりながら読んでいた。

「よお」
「はぁ!?」

 アークが窓から侵入し、声をかけるとハイリは露骨に嫌そうな顔をする。

「お前もう少しゆっくりしてこいよ」
「ははは」
「ってオイ、なんだその怪我人」

 アークの後ろから、窓の柵に手をかけ、中に入ってくる怪我だらけの人物を見て怪訝そうな表情になる。

「俺の知り合い。治療費は俺が持つ。治せ」
「何で命令系なんだよ。まぁ俺としては儲かるから構わないけど。おい! そこの眼帯。こっちへ来い」

 ハイリの手招きと深く追求しない言動にラディカルは苦笑する。
 ラディカルはベッドに腰を下ろす。足が休まる感触。このまま、動かなければ二度と立ち上がれないような恐怖の錯覚に陥る心境になる。
 ハイリは怪我が一番酷い脚に手を当てる。手袋が薄く発光しながら、ラディカルの怪我を治していく。
 手袋が薄く発光する様子に、ラディカルは手付近の――恐らくはアクセサリーに魔石が付着しているのだろうと漠然としながら考える。
 アーク・レインドフが腕前を保証するだけあって、どの知り合いの治癒術師よりも遥かにレベルが高い。

「本当に、貴方が紹介するだけあって実力は高いのね」

 室内に侵入――魔法を使って侵入したホクシアとルキはまじまじとハイリの治療を見ていた。
 ハイリはホクシアの言葉に、ラディカルの他にも人がいる事に驚き、僅かに目を丸くしたがそれを見えたのはラディカルだけだ。ハイリは治療に集中しているのか、ホクシアの方を見向きもしない。
 暫くした後、治療が終わった。

「怪我は治したけれど、少しは安静にしとけよ」
「有難う」

 ラディカルは素直にお礼を言う。治癒術で怪我が治ったとはいえ、失った血はそのままだ。血が足りない。ラディカルはそのままベッドに倒れるように横になる。

「さて……って、は? 魔族?」

 初めて、ホクシアとルキの方を向いたハイリは眉を顰める。暫く、ホクシアとルキを交互に眺めてからアークの方を向く。

「お前って、魔族の知り合いいたっけ?」
「この間知り合った」
「ふーん」

 魔族に対して興味ないのか、特に何も問わない。

「アーク・レインドフ、貴方の知り合いってところかしら?」

 ホクシアの率直な感想。ハイリは魔族に敵意を抱いていない。それ以上に感心も興味もない。

「そういう括り?」
「えぇ、そういう括り。それ以外にどんな括りがお望み?」
「……んー」

 ハイリは考えるが、それ以外に名乗る知り合いも特にはいない――魔族と交流のある。


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