零の旋律 | ナノ

V


「ははは……お兄さん、本当に常軌を逸しているよね……」

 正直な感想。アークに抱く感情は恐れ。
 アークのような感情を抱くことは一生無理だ、ラディカルは元々アークのようになりたいわけではないが――むしろなりたくないが、それでもそう思う。
 普通に会話が出来た処で――相容れる事はない。

「今さら気がついたのか? 俺にとって……前にもいったかもしれないが、魔族も人族も混血も、それ以外があったとしても全部同じだ。人でしかない」
「その同一に括ることも、お兄さんがいうと本当に怖い。その怖さが俺は今、初めて理解出来た気がする」

 理解出来た気になって、本当に理解出来たのは今だとラディカルは確信する。
 ルキもその異質さを肌で感じているのだろう、ラディカルの服を怯えるように強く掴んでいる。

「一般人が、魔族も人族も一緒だ、同じ人だと言えば、普通は嬉しいものなのでしょうけど、貴方に言われると異質でしかない」

 ホクシアもラディカルに同意する。出会ったことがないわけではない。今まで色々な人を見てきて、アークと同様の性質をもった人族と出会った事もある。
 けれど、その中でもアークは区分が飛びぬけている、そうホクシアは感じ取った。

「貴方は同じ人として括って、人としての感情を抱かないのね。そう、例え大切な人であっても、それが依頼なら躊躇なく切り捨てる恐ろしさ。本当に貴方は――貴方たちは人? と問いたくなるような異質よ」
「お褒めのお言葉光栄です、と答えるべきか?」

 ホクシアやラディカルの言葉をアークが気にした素振りはない。否、元々アークが自分の性格や性質については一番理解しているつもりでいる。
 改めて指摘されるまでもなく、アークは理解している。
 そして、そんな感覚を自分同様に持っている人たちも知っている。

「褒めてはいないわ」

 ホクシアは呆れながら返答をする。

「そりゃ、そうだろうな。眼帯君、どうする?」
「何を?」
「その怪我結構酷いだろ。今、ホクートに俺の昔馴染みの治癒術師がいる。治療するなら紹介するぞ?」
「……」

 ラディカルは改めて言われてから、自分が負った怪我を見る。足はかなり痛みが酷い。気を抜くと痛みのあまり倒れそうになる。他の箇所も切り傷が酷く、出血が多い。

「あは……お兄さん頼む」
「治癒術師としての腕前だけは優秀だからな、あいつ」

 宿で悠々自適に過ごしているだろう、ハイリの姿を思い浮かべる。
 ハイリは自分たちに対して無償奉仕をすることはない。しかし、ラディカルの治療代くらいなら持ってもいいかとアークは思っていた。
 そう思う程度には付き合いがあると。
 ラケナリアも殲滅した事だし、これ以上依頼を続ける必要はない。
 ラケナリアのリーダーと思しき人物から、証拠になりそうなものを奪い取る。是で充分だと判断する。

「……ホクシアと、ルキだっけ? 二人はどうするんだ」

 何気なくアークは問う。ラディカルに付き添うのもあり。このまま元来た道を引き返すのもあり。
 どちらを推奨するつもりもないし、引き留めるつもりもない。拒絶することもないだけだ。


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