零の旋律 | ナノ

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「もう、いい。結局お前らが相容れないようにしか見てくれないなら、結局そんなもんなら、俺は海賊なんて――目指さなくていい」

 月明りが照らすように、太陽が輝くように、海がその光を受け、輝きを生むように。

「何時も夢を打ち砕く存在ならば、それでいい。もう俺は――期待しないから」

 その瞳は眩い宝石のように、光を一点に集中したように美しい――金色。

「だから、それ以上何もするな」

 有無を言わせぬ力強い言葉。ラディカルは炎を纏ったナイフを回転させ投げる。
 ルキは横で瞬きを何度も繰り返す。――それが現実であればいいと願い、夢ではないことを願い

「お前は……ハーフか!!」

 ラケナリアが叫ぶ。

「あぁ、そうだよ。俺は半分、魔族さ」

 淡々と事実を告げる。
 炎を纏いしナイフはラケナリアの横を通り抜けると同時に、炎が全体に広がり、焼き尽くす。
 すぐに沈下した炎の焼け跡が甲板に残る。
 リーダー格の人物以外のラケナリアも、ホクシアとアークが倒したようで、既に起き上がっているラケナリアは誰一人としていなかった。
 終わったと判断し、ラディカルはナイフを仕舞う。

「いいの?」

 ホクシアはラディカルの前に立ち問う。眼帯をして、魔族である証を隠してきたということは、人族として暮らす意思があったからこそ。眼帯を外してしまえば、人族として暮らすことは叶わない。

「いい」
「……貴方が人族として暮らすのなら、私はその道をとめることはしない。その方がずっといきやすいから、魔族であることは生きずらいということ」
「やっぱ、ホクシアは俺が混血だって気がついていただろう」
「えぇ。言動が人族には到底思えなかったし、第一匂いに魔族が混じっているように思えた」
「匂いって……」

 ラディカルは頭をかく。ホクシアは最初からラディカルの正体に気が付いている節を感じ取っていた。
 確信したのはアルベルズ王国で出会い『眼帯』について問われた時だ。
 眼帯はいわば、自分の身を守るための防波堤。心も同時に守る為の防御壁。
 眼帯をしていれば、魔族だとばれる可能性は低い。人族として平穏に暮らす事が出来る。
 人前では眼帯を片時もは離すことはしなかった。
 悲しい思いをするのはもう御免だったから。

「まぁ、別に誰も見ていないのだから、目撃者は死んだのだから――」
「誰も見ていないって、今にも死にそうなお兄さんがいるけど」

 ラディカルは視線をアークへ移す。看板で悠々と立っている。返り血が一切ない。実力の高さを如実に物語っている。ラディカルのナイフでジャグリングをするように遊んでいた。危険な事を危険とすら思っていない。
 アークは視線を受け、ジャグリングを止める。

「ん?」
「今にも死にそうなお兄さん……」
「眼帯君が眼帯している理由って混血だったからなんだ」

 気にとめた様子もなく、世間話する程度の軽さでアークは問う。
 元々アーク・レインドフがそう言った性格であることをラディカルはある程度認識していながらも、拍子抜けする。

「まぁな。意外?」
「いや、別にどーでもいいし。眼帯君が混血だろうが、魔族だろうが、人族だろうが」
「かはははっ。お兄さんってやっぱり変だよな。普通魔族だってわかったら態度変えそうなものを」
「俺は始末屋レインドフ家の人間だ。依頼を受ければ人族だって魔族だって――混血だって殺すさ」

 何の感情も抱かず、何の思いも抱かず。淡々と始末する。
 改めて、その恐ろしさを肌でラディカルは感じる。寒気がする、嫌な感じがする――それは恐怖。
 平等であり不平等であり人を人とも思わず、人を人として扱う。


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