零の旋律 | ナノ

金色の想い(続:海賊眼帯)


 ラケナリアの面々はアークとラディカルに怪訝しながら、魔族を殺すことが先決だ、と言わんばかりに向かう。当然ながら、魔族の呆然としているわけではない。魔族の目的もまた、仲間を殺すラケナリアの殲滅なのだから。
 ルキは呪文を唱えながら、ラケナリアと対抗する。

「風が舞う丘、風蝉」

 呪文を唱え終えると、ルキの掌に薄緑色の魔法陣が発光し風を生みだす。

「炎帝がたむろえ、雷帝が伝達せよ」

 ホクシアはルキより高度の魔法を一部の詠唱省略しながら放つ。
 炎の渦がラケナリアを包み込み、炎の渦の中心部には雷が纏う。
 ラケナリアは炎を消そうと、水属性の魔導を放つ。アークもその争いに加わる。ラディカルは一瞬、その時のアークの表情を隣で直視してしまい――何も見なかったことにした。
 アークから結局ナイフを返してもらえなかった為、一刀のナイフで相手どる。魔族を殲滅せんとする組織だけあってか、個々の実力が高かった。しかし、その実力も彼彼女らの前では殆ど意味を成さない。あっという間に半数は地に伏せた。
 ラケナリアは忌々しそうに舌打ちする。この中のリーダー格だろう。オレンジと赤の装束の他に、黒いコートを羽織っている。

「闇が降りしきる虚空、深淵への扉を開け」

 ラケナリアが高速詠唱する。ルキの足元に闇属性の扉が開く。闇は扉から生まれ、ルキを傷つける暗黒の刃となる。

「――!?」

 ルキが逃げようとするが、足元が絡め取られ、逃げられない。しかし、ルキの身体を弾け飛ばす衝撃で、闇から逃れる。地面に倒れるように、辛うじて受け身だけは取る。

「ラディー!?」

 自分を弾き飛ばした人物が、自分のいた場所にいる。ルキは慌てて起き上がる。闇の扉が閉じる。
 ラディカルは両手で頭を守るようにガードしていたが、足元からは血が滴る。

「ラディー!? 何故」

 ルキは慌ててラディカルに駆けよる。あちらこちらから出血の後がみられる。ルキの心は焦る。
 ――何故、何故僕を
 わけがわからなかった。下手したら死ぬような攻撃を庇う理由がわからなかった。
 ――あの時と同様に。あの時と同じように、何故助けてくれるの。

「んー気がついたら、自然に」

 はにかむ笑顔が痛切で、ルキの心にこびりつく。ラディカルに助けられた時の笑顔が忘れられない。
 ラディカルは怪我だらけの脚で立ちあがる。

「ねぇ、なんで魔族を狙うんだ?」

 ラディカルの問い。切実な問い。

「そんなもの、敵だからに決まっているだろう」

 簡潔な返答。これ以上ない程に明確で明瞭な答え。

「あははははははっ」

 笑う、笑う。何かが吹っ切れた。

「あははははははっ」

 何かがどうでも良くなった。どうでも良かった。

「敵だから、とかさ、そんな簡単に、簡単に――割り切るなよ!」

 真剣な眼差し。怒りに満ちた瞳。悲しみに満ちた瞳。絶望と憤怒が入り乱れ、それでも何処か希望に縋っていたかった瞳。現実はいとも簡単に思いを打ち砕く。
それならばもう
 ――もう、いい。
 ――もう、いいんだ。
 ラディカルは眼帯に手をかける。右手にはナイフを握り締め。
 眼帯を外すと、同時にナイフが炎に包まれる。


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